研究課題/領域番号 |
16K10779
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構九州医療センター(臨床研究センター) |
研究代表者 |
秦 暢宏 独立行政法人国立病院機構九州医療センター(臨床研究センター), その他部局等, 医師 (10596034)
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研究分担者 |
空閑 太亮 九州大学, 医学研究院, 助教 (40759932)
吉本 幸司 九州大学, 大学病院, 講師 (70444784)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | HRM / glioma / genetic analysis / IDH / BRAF / TERT / point mutation / glioblastoma |
研究実績の概要 |
HRMによる遺伝子変異の解析アルゴリズムを確立することを、初年度の目標として研究を進めてきた。IDHとBRAFの点変異の検出に関しては、2階微分法を用いた解析手法を開発し、論文として発表した(Hatae R. PLoS One. 11(8):e0160489. 2016)。2階微分法を用いることで、HRM解析の欠点とされていた、判定のあいまいさ、不安定な再現性といった要素は解消され、シークエンス法との比較において、新規HRM解析の変異検出感度は100%であった。信頼性が高く、臨床での分子診断に用いうる手法を確立したことは、非常に高い意義を有すると言える。さらに、IDHとBRAFの変異を、実際に本手法を用いて臨床検体で解析を行った結果、変異を有する症例の臨床的な特異性を見出し、各々について論文として報告した(IDH: Hata N.Neuropathology. 2017, BRAF: Hatae R. Neuropathology. 2016 いずれもin press)。 これらの結果は、IDHおよびBRAFの変異の有無を基に、グリオーマの治療戦略を構築すべきであることを示唆している。本解析法により、腫瘍サンプル採取から、最短2時間程度で変異解析結果が得られるようになり、シークエンス法では同様の結果を得るのに数日かかっていたことから鑑みて、大きな進歩であり、迅速診断にも応用が可能と考えられる。本解析のような簡便かつ正確な手法が、臨床の現場に普及することは、非常に重要であり、患者への寄与も大きいと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規HRM解析法の確立は達成され、論文化することができ、本研究の一里塚を築くことができた。また本手法によるIDHとBRAFの解析が、実際に臨床において有用であることを、臨床検体を用いて証明することができ、各々の遺伝子における知見を論文化した。トランスレーショナルな研究も並行して成果が得られていることから、進捗状況は順調と考えている。 その他の初年度計画については、TERTやH3F3Aなどの遺伝子解析も進めており、preliminaryな結果は得られているため、こちらも順調と言える。染色体欠失の解析への応用は、現時点で行った実験では、まだ新規解析法の有用性を示す結果は得られておらず、こちらは今後の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
まず、グリオーマにおける遺伝子変異の解析を、HRM単独で網羅的に行うことができるような手法を確立する必要がある。現時点で、IDHとBRAF以外は、まだ手法が確立していないため、他の遺伝子変異解析のアルゴリズムを調整する。現時点で、preliminaryに結果が出ているH3F3AやTERTの変異に関しては、今後さらにプライマーや試薬、反応条件の最適化を進めていく。その他の遺伝子に関しても、順次手法を確立していく。染色体欠失の解析に関しては、現時点で有意な結果が得られていないが、その次のステップとして、実験を進めていく。 その次の段階として、解析の自動化が課題となる。その端緒として、新規解析法のアルゴリズムを応用して、コンピュータ上で自動解析できるシステムを構築すべく、人工知能(AI)による解析の可能性を模索している。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究を進めるに当たり、初年度においては方法論の確立に時間が割かれたため、実験物品の消費が予想よりも下回ったことが、物品費の請求額と、実際の消費との乖離が生じた主たる原因である。しかしながら、遺伝子解析の結果自体は初年度に充分なデータ蓄積が得られ、その成果として学会発表や論文掲載が予想外に多くなり、それに関わる支出が予想を上回り、やや全体の請求額が相殺されている。
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次年度使用額の使用計画 |
今後は、まだ解析法が確立していない遺伝子や染色体欠失に関する実験量が増大することが予想され、実験器具や試薬の購入額の増加を想定する必要がある。また、自動解析プラットフォームの構築を目指しており、他施設とのコラボレーションを検討していることから、謝金などへの支出も発生すると考えられる。これらに対して、初年度からの繰越を有効に活用する方針である。
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