研究課題
本年度は、FFAR1拮抗薬(GW1100)およびFFAR1遺伝子欠損マウスを用い、各種疼痛モデル(カラゲニン投与急性炎症性疼痛モデル; 完全アジュバント投与遷延性炎症性疼痛モデル; 末梢神経障害性疼痛モデル: L4/5 spinal nerve ligation; 術後疼痛モデル)におけるFFAR1の機能的重要性を検討した。特に術後疼痛モデルにおいては、疼痛行動学上、患側後肢の機械的疼痛が完全寛解している術後10日目にGW1100を単回脳室内投与すると、投与後30分から患側の機械的痛覚過敏が再発するとともに、脊髄後角においては患側触刺激に伴いリン酸化ERKの発現が認められた。すなわち、上位脳FFAR1の活性化は遷延する疼痛状態時における内因性疼痛抑制に寄与すること、そのメカニズムの1つとして、下行性疼痛抑制系賦活に関与することが示唆された。さらに我々は、上記モデルマウスを用い、FFAR1は疼痛に伴ううつ様行動に関与するか否かを検討したところ、遷延性炎症および末梢神経障害モデルのFFAR1欠損マウスでは、尾懸垂試験における不動時間の延長を早期に引き起こし、かつ不動時間延長の程度も大きかった。そこで脳内モノアミン遊離におけるFFAR1の機能的関与を検討するため、線条体においてin vivoマイクロダイアリシスを行った。FFAR1欠損マウスにおける正常時モノアミン遊離量は、野生型マウスと比べ、ノルアドレナリンとセロトニンは減少傾向を示し、ドーパミンは有意に増加していた。さらに野生型マウスにFFAR1作動薬を局所投与すると、セロトニン遊離は増加するが、ドーパミン遊離は減少した。一方、GW1100の局所投与は、セロトニン遊離を減少させ、ドーパミン遊離は増加させた。以上の結果から、FFAR1は脳内モノアミン遊離を調節することで、うつなどの情動行動に関与することも示唆された。
2: おおむね順調に進展している
「研究実績の概要」に述べたように、疼痛などのストレス刺激に伴う情動行動に、上位脳におけるFFAR1の機能的重要性が明らかになりつつあり、特に脳内モノアミン系の調節に関与するという興味深い可能性が示唆された。上位中枢におけるFFAR1の機能に関しては不明な点が多い中、本研究結果は、FFAR1作動薬の新規の抗うつ薬としての可能性を示している点で非常に重要であると考えている。
線条体FFAR1シグナル系は、ドーパミン神経伝達を調節することも明らかとなってきた。予備的検討段階ではあるが、FFAR1欠損マウスはコカイン投与による移所運動活性応答が有意に減弱していた。今後はコカインやモルヒネ等依存性薬物の応答を調べ、薬物依存とGPR40/FFAR1シグナルとの関係について検討を重ねる方針である。
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Journal of Pharmacological Sciences
巻: 132 ページ: 249-254
http://dx.doi.org/10.1016/j.jphs.2016.09.007