研究課題/領域番号 |
16K10800
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
周郷 延雄 東邦大学, 医学部, 教授 (80287515)
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研究分担者 |
根本 匡章 東邦大学, 医学部, 准教授 (60266971)
近藤 康介 東邦大学, 医学部, 助教 (70349877)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 3Dプリンター / 立体模型 / 脳神経外科手術 / 頭蓋底腫瘍 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、各脳神経外科疾患の神経放射線画像データをもとに、3D プリンターを用いて様々な手術に則した立体模型を作製し、その手術教育方法を確立することにある。 研究実施計画として、以下の5項目を挙げている。すなわち、1. 三次元画像解析ソフトを用いて神経放射線画像データから三次元合成画像を作成する、2. 3D プリンターを用いて各手術法に則った立体模型(部分的な網目状構造、内部が色付けされた骨)を開発する、3. 立体模型の解剖学的再現性および精度を評価する、4. 立体模型を用いた手術教育システムを構築する、5. 本教育システム自体の評価を行う、である。 初年度(平成28年度)はそれらのうち1から3の項目を行った。具体的な研究実績として、画像データの位置合わせを含む三次元合成画像の作成、医療画像データにおけるDICOMデータフォーマットからSTLデータフォーマットへの変換とその際の誤差の縮小の研究を行った。これらは、本研究における立体模型の解剖学的精度を担保する根幹をなし、今後の研究遂行における基礎的技術として重要である。その上で、3D プリンターを用いた各手術法に則った立体模型のひとつとして、頭蓋底腫瘍を網目状構造へ変換することに成功し、その研究内容をいくつかの学会で発表するとともに、国際学会誌に掲載した。今後の研究計画は、項目2のひとつである骨内部を色付けした立体模型を作製し、実際に顕微鏡下でドリリングの手術ができる模型へと改善していくことである。最終的な目標は、各手術法に則った立体模型(部分的な網目状構造、内部が色付けされた骨)を用いた手術教育システムの構築であり、法的および経済的に制限のある遺体を用いた手術手技研修(Cadaver training)と相互補完できるようにすることである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画として、1.神経放射線画像データからの三次元合成画像の作成、2. 3D プリンターを用いた各手術法に則った立体模型(部分的な網目状構造、内部が色付けされた骨)の開発、3. 立体模型の解剖学的再現性および精度の評価、4. 立体模型を用いた手術教育システムの構築、5. 本教育システム自体の評価の5項目を挙げ、初年度(平成28年度)はそれらのうち1から3の項目を行った。 すなわち、神経放射線画像データからの三次元合成画像の作成として、CT、MRI、脳血管造影の複数の画像データの位置合わせ、およびその誤差の縮小に成功している。次いで、三次元合成画像をDICOMデータフォーマットからSTLデータフォーマットへ変換することで、3Dプリンターを用いた立体模型を造形した。さらに、コンピュータソフトの機能を駆使して、立体模型における腫瘍の網目状構造化に成功した。腫瘍の網目状構造化における手術シミュレーションへの有用性は、頭蓋底腫瘍において腫瘍を充実性にした模型、腫瘍を省略した模型、腫瘍を網目状化した模型の三種類を作製し、それぞれの立体的位置関係や深部の透見度を評価することで行った。その結果、腫瘍の網目状化は他の2種類の模型に比して統計学的有意差をもって有用であることが証明され、その研究内容を国際学会誌に掲載した。現在、骨内部を色付けした立体模型の造形に着手しており、脳神経外科として重要な手術手技のひとつであるドリリングにおける教育上の有用性を検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度以後は、5項目の研究実施計画のうち、3D プリンターを用いた骨内部が色付けされた立体模型の開発、これらの立体模型を用いた手術教育システムの構築、本教育システム自体の評価を行う予定である。 特に、平成29年度には、3D プリンターによる経錐体骨到達法のための教育用立体模型として、骨内部の色付けに関する研究を行う予定である。そのためにはまず、手術時に重要な構造物である錐体骨内の微小解剖部位(三半規管やその周囲の緻密骨、蝸牛、耳小骨、顔面神経管、乳突洞等)をCTやMRIから画像抽出し、三次元合成画像化していく。次いで、三次元合成画像をもとに、3D プリンターを用いて錐体骨内の微小解剖部位が様々に色付けされた立体模型を作製する。この立体模型を用いて経錐体骨到達法を顕微鏡下に行うことで、ドリリング用模型としての有用性、錐体骨内の微小解剖部位の精度、本立体模型の教育的有用性を検討する予定である。 平成30年以後では、本研究で完成した各手術法に則った立体模型(部分的な網目状構造化、骨内部が色付けされた模型等)を用いた教育法を開発していく。具体的な若手脳神経外科医(受講者)への教育方法としては、教科書による基礎知識の習得、指導者による講義、実際の同一症例の神経放射線画像(CT、MRI、脳血管造影)の読影、三次元合成画像による検討、実際の同一症例の手術動画を用いた指導を行った上で、最終的に立体模型を用いた手術手技実習を行う。本教育システム自体の評価は、受講者のアンケート調査(各立体模型の精度や再現性、骨のドリリング、手術法の理解度)によって行う。また、実施した際の費用(立体模型作製にかかる費用および諸経費)、実施時間、人的負担、準備時間等についても併せて評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究において、研究費を要する中核は、3D プリンターで立体模型を作製する際の素材粉末や専用糊(バインダー)などの消耗品である。初年度(平成28年度)の研究内容としては、神経放射線画像データからの三次元合成画像の作成、3D プリンターを用いた各手術法に則った立体模型(部分的な網目状構造、内部が色付けされた骨)の開発が主であり、コンピュータ上での医療画像からの画像抽出や立体模型の造形に関するアイデアを出すことであったため、結果的に研究費の支出が少なった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度以後は、コンピュータ上での作業に加えて、様々な検討を行うために多数の立体模型を作製する予定である。したがって、次年度使用額とともに翌年度分として請求した助成金を使用して、3D プリンターで立体模型を作製する際の素材粉末や専用糊(バインダー)などの消耗品を購入する予定である。また、必要に応じて、3D プリンター、手術用顕微鏡、手術用ドリルのメインテナンスにも経費を使用する予定である。
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