研究課題/領域番号 |
16K10813
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
榎本 光裕 東京医科歯科大学, 医学部附属病院, 非常勤講師 (90451971)
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研究分担者 |
早乙女 進一 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 寄附講座准教授 (20401391)
大川 淳 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (30251507)
辻 邦和 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 寄附講座准教授 (20323694)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 慢性疼痛 / 末梢神経損傷 |
研究実績の概要 |
昨年度は、マウス腓骨・脛骨神経を切断し、腓腹神経を残存させるSNIモデルを使用して、新規疼痛関連分子の同定を試みた。SNIモデルに対して皮膚切開のみの対照群、坐骨神経切断モデルを作製して、損傷3週後の腰部DRGを摘出して、疼痛に関連する分子について網羅的にRNA発現を解析し、グループ間で比較した。その中で坐骨神経切断モデルよりもSNIモデルで2倍以上の発現高値を示した神経に関連する4分子を同定した。その中でバソプレッシンに関連する分子に注目した。新規にSNIモデルと左坐骨神経を絹糸で部分結紮するpartial sciatic nerve ligation(PSNL)モデルを作製して経時的に腰部DRGでの同分子でのmRNA発現を解析した。SNIでは損傷3週目で対照群と比較して1.8倍、6週で1.3倍の発現高値を認めた。PSNLでは、3週目で2.5倍、6週目で1.6倍の発現高値を認めた。同分子は、損傷慢性期で2つの疼痛モデルに共通して腰部DRGで高値を示していた。また、SNIモデルの腰髄部分での発現解析では、腰部DRGと同様に損傷3週、6週で高値を示していた。少なくとも腰部DRGから脊髄までの経路で同分子が疼痛慢性期に応答していることが明らかとなった。 バソプレッシンは、侵害受容性疼痛に対して疼痛を軽減する作用を有しているが、詳細なメカニズムは不明である。神経炎症性モデルでの関連についてすでに報告されているが、神経障害性疼痛での報告は皆無である。今後、研究計画で予定している標的RNAの制御技術を用いて疼痛慢性化の機序と新規治療法の開発を目指す。現在、同分子のアゴニスト、アンタゴニストを使用したvivo実験、ノックアウトマウスの作製を準備している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、当初の計画通りSNIモデルに応答する疼痛関連分子の探索を実施し、バソプレッシン関連分子の同定を得た。SNIモデルのみでなく、神経結紮モデルでも発現高値を示していることから疼痛慢性化に重要な因子と考えている。現時点では、腰部DRGと脊髄でのRNA発現をとらえたものであり、免疫染色等を用いて同分子の局在を組織学的に同定していく予定である。また、初年度計画に記載した既存の分子の発現パターン解析も継続して実施した。この数年で複数の論文が発表されているTRPチャネル分子のTRPA1に注目した。しかし、当方でのマウス神経障害性疼痛モデルの腰部DRGでの発現は、損傷3週、6週で1.1~1.2倍程度の発現であった。よってDRG内部での発現パターン、脊髄での発現に注目し再度検討していく予定である。現時点でバソプレッシン関連分子、TRPA1の2分子に注目して最終年度の目標であるRNA制御による新規疼痛治療の開発につなげたい。
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今後の研究の推進方策 |
バソプレッシン関連分子については、RNA発現だけでなくタンパク発現の定量をすすめていく予定である。損傷後、経時的に脊髄、DRGを単離してウエスタンブロットや切片作製後に免疫染色法によって発現を定量する予定である。さらに同分子のアゴニスト、アンタゴニストを使用したvivo実験、ノックアウトマウスの作製を準備している。ノックアウトマウスでも同様の慢性疼痛モデルマウスを作製して同分子の役割を行動学的評価と併せて解析する予定である。in vitroでは、同分子の遺伝子制御が可能な2本鎖オリゴヌクレオチドの配列決定を行い、in vivoヘの応用を進める。また、前年度計画にあったThy1-YFP Tgマウスは繁殖に成功しており、慢性疼痛状態で神経線維での同分子での局在を免疫染色法で解析を進める予定である。RNA制御による新規疼痛治療の開発を目標に国内外での成果発表および論文作成をおこなう。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験動物の購入、飼育費用が主となっている。モデル作製や行動解析は、すでに購入した物品もあり比較的安価で実行できた。前年度同様に多くのサンプルを採取した。免疫染色に必要な抗体を購入したが、一部既存の抗体使用も可能であり購入数が少なかった。PCRは前年度のキットが残っており、購入回数が少なかった。ノックアウトマウス作製に時間がかかり支払いが今年度に繰り越しになった。
今年度も昨年と同様にマウスを使用した動物実験が中心となる。手術用マウスについては、年間で予備実験や予期せぬ死亡(全体の約10%程度)を含めると100匹程度必要となる。動物実験施設におけるマウス購入および飼育費用が中心となる。今年度はノックマウスを購入予定とし、核酸医薬も購入予定である。PCR等の分子生物学的解析には試薬が必要であり、適宜購入が必要である。組織染色には、目的分子特異的に反応する抗体の購入が必要となる。昨年度まとめたデータについては積極的に国内外での学会発表を行い、研究計画を遂行することで論文として成果をまとめる。
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