研究実績の概要 |
損傷脊髄において、再髄鞘形成に関わるオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)は活発に増殖するが、多くが分化することなく細胞死へ至ることが報告されている.我々は小胞体ストレス誘導性アポトーシスに着目し研究してきた.近年、細胞死を誘導する新たな経路としてインフラマソームを介した細胞死が注目されている. 他分野では小胞体(ER)ストレスによるインフラマソームの活性化も報告されているが、損傷脊髄における関連は未だ不明である.小胞体ストレス応答とインフラマソームの各cascadeの相互作用を検討し、この下流にある細胞死(アポトーシスとピロトーシス)を軽減することは重要である. また、われわれは、OPCがERストレスに対して脆弱であることを報告した.さらにインフラマソームの細胞種による差も検討する.損傷脊髄内におけるインフラマソーム発現【方法】IH-Impactor (LI群:100kdyne,HI群:200kdyne)を用いて胸髄圧挫損傷モデルを作成し(n=60),損傷後1,3,7,14日(n=5)に脊髄を摘出し、ウェスタンブロットと二重免疫染色を用いてインフラマソーム構成蛋白の発現を比較検討した. ③TXNIPの発現を損傷強度ごとにウェスタンブロットを用いて比較検討した.【結果】①損傷群におけるインフラマソーム構成蛋白の発現は、非損傷群に比べて、損傷後1, 3, 7日において有意に高値を示した*.損傷強度による差は認めなかった.②損傷後1,3,7日のOPCにおけるNLRP3, ASC, Caspase-2の発現率は,損傷群が非損傷群と比較し有意に高かった*.また損傷後1日におけるOPCでの発現率は, アストロサイトと比較して有意に高値を示した *. ③TXNIPの発現は,損傷後1日目と3日目において、LI群HI群の両群において有意に高値を示した.*: p<0.01
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今後の研究の推進方策 |
近年、糖尿病薬として普及しているGLP-1受容体作動薬であるエキセナチドは、インスリン分泌能の改善に加え、心保護作用や抗動脈硬化作用が報告されており、その要因としてERストレス応答能の改善がある.そのため、今後は脊髄損傷後に対してのGLP-1受容体作動薬の有効性とERストレスへの影響を調査する.近年様々なGLP-1受容体作動薬が開発されているが、本研究では週一回投与である長期作用型のエキセナチドとデュラグルチドの投与を行う.方法:10週齢雌SDラット(n=60)でIH-Impactorを用いて200kdyn胸髄圧挫損傷モデルを作成し、脊髄損傷直後にエキセナチドを皮下注射した群(エキセナチド群)、デュラグルチドを皮下注射した群(デュラグルチド投与群)、脊髄損傷のみの群(コントロール群)の3群を作成する.投与群には損傷後7日で2回目の投与を行う.損傷前、直後、3、6、12時間後と隔日での血糖値を測定する.損傷後の後肢機能評価をBBBスコアで行う.また、損傷後1,3,7,14日(各群n=5)に脊髄を摘出し、小胞体ストレス関連蛋白であるGRP78、CHOPの発現を、蛍光二重免疫染色とウエスタンブロットを用いて解析し、比較検討する.
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