研究課題/領域番号 |
16K10846
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田中 健之 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (00583121)
|
研究分担者 |
石原 一彦 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (90193341)
岡村 陽介 東海大学, 工学部, 准教授 (40365408)
高取 吉雄 東京大学, 医学部附属病院, 特任教授 (40179461)
金野 智浩 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (80371706)
矢野 文子 東京大学, 医学部附属病院, 特任講師 (80529040)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 医療・福祉 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、独自技術である「薬剤坦持ナノシート」と「生体親和性ポリマーによるナノ表面処理」とを応用し、骨折に対する革新的な治療法を創出するための基礎検討を完成させることである。骨癒合の促進に加え、癒合不全(遷延治癒・偽関節)・感染という合併症を阻止することで、日常生活動作(activities of daily living:ADL)・生活の質(quality of life:QOL)の改善および健康寿命の延伸を目指す。今年度は、以下の検討を行った。 1.ナノシートの創出と物性の評価:平成28年度に創出したナノシートに骨形成性の薬剤を担持させ、その徐放特性を評価した。この結果、少なくとも8週間にわたり、有効濃度の薬剤を徐放することが確認できた。また、生体内の環境を模した流動環境下のin vitro感染症モデルに用いて、ナノシート表面の細菌付着・バイオフィルム形成抑制効果を、付着・浮遊生菌数測定、蛍光顕微鏡観察、走査型電子顕微鏡観察などにより検討した。 2.in vivo動物モデルを用いた治療効果の評価:1.で創出した骨形成性薬剤担持ナノシートを、申請者らが開発したマウス頭頂骨臨界骨欠損モデル、マウス大腿骨難治性骨折モデルに用い。ナノシートの骨再生誘導を検討した。この結果、ナノシートにおいて、骨形成が誘導されることを確認できた。 以上の結果は、独創的な基盤技術を応用し、革新的な治療法を創出するための基礎検討を推進するための確信を得るに十分な結果であった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. ナノシートの創出と物性の評価(平成29年度の達成度100%): 骨形成性の薬剤を担持させたナノシートを創出し、最適な徐放速度に制御できるナノシートの膜厚、組成を決定した。薬剤の徐放を計測し、少なくとも8週間にわたり、有効濃度の薬剤を徐放することを確認した。また、流動環境下のin vitro感染症モデルにナノシート用い、その表面では細菌付着・バイオフィルム形成が抑制されることを明らかにした。 2. in vivo動物モデルを用いた治療効果の評価(平成29年度の達成度100%):平成28年度に行った薬剤非担持のナノシートの評価に継続し、1.で創出した骨形成性薬剤担持ナノシートをマウス頭頂骨臨界骨欠損モデルに用い、骨再生誘導を検討した。マイクロCTによる骨再生の三次元画像評価、各種骨基質タンパク質に対する免疫染色などにより、骨形成性薬剤担持ナノシートの群で旺盛な骨再生が誘導されることが確認できた。また、平成28年度に確立したマウス大腿骨難治性骨折モデルにも骨形成性薬剤担持ナノシートを用い、骨形成能の評価を開始し、同様に骨形成が亢進していることを確認できた。29年度にはさらに期間と個体数を増やして評価を継続する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
1. ナノシートの創出と物性の評価: ナノシートの重層化など、ナノシートの構造について検討する。薄膜機械強度測定(弾性率・伸び率を測定)、並びに接着強度試験(スクラッチ試験)を実施して物性表をまとめ、この表を基に適切な接着力を有するナノシートの膜厚を決定し、病変部の形態変化を想定した伸縮に耐え得るナノシートの組成(伸び率100%以上)に絞り込む。また、MPC処理ナノシートについて、平成28-29年度のin vitro/ vivoの評価結果をフィードバックし、効果を発揮するためのMPC層の最適化を行う。さらに、in vitro感染モデルにMPC処理ナノシートを用い、予め形成させたバイオフィルムに対して流動環境下で抗菌薬を作用させ、付着・浮遊生菌数測定、蛍光顕微鏡観察、走査型電子顕微鏡観察などにより、バイオフィルム形成抑制効果とこれに伴う抗生剤の抗菌作用を評価する。 2. in vivo動物モデルを用いた治療効果の評価: 平成29年度の、マウス大腿骨難治性骨折モデルに骨形成性薬剤担持ナノシートを用いた評価を継続する。画像評価(肉眼所見,X線像,マイクロCT像)、組織学的評価(Hematoxylineosin(HE)染色,Masson’s trichrome染色)などにより、骨形成能の評価を行う。また、1.で創出する重層化ナノシートなどの効果についても検討するまた、マウス感染症モデルにナノシートを用い、付着・浮遊生菌数測定、蛍光顕微鏡観察、走査型電子顕微鏡観察などにより、感染制御について検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
動物実験を2月末から3月初めに予定していたが、試験サンプルについて新年度に予定していた、新規調整方法を前倒しで開発することができた。試験を効率的に行うため、新規調整方法でサンプルを作成を行い、4月初め(新年度)に動物実験を行うこととした。試験計画全体としては前倒しに進行している。
|