研究課題/領域番号 |
16K10849
|
研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
堀田 哲夫 新潟大学, 医歯学総合病院, 准教授 (00272815)
|
研究分担者 |
川島 寛之 新潟大学, 医歯学系, 講師 (30361900)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 骨軟部肉腫 / 循環微量腫瘍細胞 / 融合遺伝子 / RT-PCR / バイオマーカー |
研究実績の概要 |
骨軟部肉腫のおいては、癌腫で臨床上頻用されるような腫瘍マーカーはほとんどなく、末梢血の解析により、患者の病態を客観的に推察する指標はない。そこで、我々は平成25年度から27年度に科学研究費助成事業として「骨軟部肉腫における腫瘍特異的融合遺伝子を目的とした血中循環微量腫瘍細胞の検出」について検討し、その有効性について基礎的な結果を示すことができた。本年度は、ユーイング肉腫、粘液型脂肪肉腫と滑膜肉腫の様々な病態の患者から末梢血を採取し、それぞれに特異的な融合遺伝子であるEWSR1-FLI1, FUS-DDIT3とSS18-SSX1,2に対する特異的なプライマーを作成し定量的RT-PCR法により血中循環腫瘍細胞の検出が可能か、さらにその相対定量と病態との相関性はあるかなど検討を重ねてきた。その結果、現在の手法では滑膜肉腫の進行期で多発転移を生じている症例の末梢血において、融合遺伝子が検出されたが、それ以外の症例では検出できなかった。このため、現状の検出法では臨床応用は困難であると考えている。一方で、末梢血から融合遺伝子以外のバイオマーカーで骨軟部肉腫の病勢を推測するようなものはないか、様々な検討も重ねている。軟部肉腫(悪性軟部腫瘍)においては、顆粒細胞数やCRP、γ-GTPの上昇レベルが生命予後にも関連することを見出し、臨床的にも病勢の推測に役立つことを見出した。さらに、乳がんや肺がんなどで予後との相関性が指摘されているスタニオカルシン-1の発現について、軟部肉腫の一種である脂肪肉腫で組織学的悪性度と相関があり、良性に比べ悪性で発現が高いことを見出した。スタニオカルシン-1については、がん組織におけるワールブルグ効果(嫌気性解糖系によるエネルギー産生)にも関連していることが報告され、悪液質を呈している患者末梢血からの発現レベル解析も進めてる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画した通り、あらかじめ保存してある骨軟部肉腫の50症例の末梢血から、腫瘍特異的な融合遺伝子を標的とした定量的RT-PCR法による末梢血液中の循環腫瘍細胞の検出を検討した。滑膜肉腫で進行期・多発転移を生じている症例の血液から、特異的融合遺伝子であるSS18-SSX1, 2の発現を検出することができた。しかし、ユーイング肉腫や粘液型脂肪肉腫に関しては、いまだ明らかな検出が行えておらず、当初の予定より進捗が遅れていると言える。このため、本年度に予定していた病勢に応じた循環腫瘍細胞の融合遺伝子検出コピー数の変化についての検討は、今のところ行えていない。一方で、末梢血中の他のバイオマーカーを用いた骨軟部肉腫患者の病勢との相関については検討が進んでいる。臨床において患者診療の過程で行った血液検査を後ろ向きの解析したところ、軟部腫瘍においては、良性に比べ悪性で顆粒球数、CRP値、血沈値、γ-GTPが有意に上昇していることを見出した。また、軟部肉腫においては顆粒球数、γ-GTP、CRPの上昇レベルが予後とも相関していることを見出した。また、本研究の過程で得られた、微量検体からのRNA抽出や定量的RT-PCR法の手技を応用することにより、様々な腫瘍組織の良悪性鑑別や悪性度評価なども進めている。脂肪系腫瘍においては、微量の腫瘍検体から定量的RT-PCR法によりCDK4やMDM2といった遺伝子の相対的発現量の比較が良悪性の鑑別に有用であることを見出し、臨床現場でも応用している。さらに、様々な脂肪系腫瘍において、スタニオカルシン-1遺伝子の発現量が悪性度と相関して高くなることも見出した。スタニオカルシン-1については、一部の軟部肉腫においては予後とも相関があることも見出している。これらの結果については、学会や論文で報告し、当初の予想外の進展となっている。
|
今後の研究の推進方策 |
これまで、予定通りに進んでいない部分についてはより強力かつ迅速に研究を推し進めていく必要がある。研究の進捗に最も問題となっているのは、腫瘍組織から血中に侵入して体内を循環している、血中循環腫瘍細胞の効率的な回収法であると考えれる。これまで、有効な回収法がなかったため、末梢血全体からRNAを抽出し、腫瘍特異的融合遺伝子を標的に定量的RT-PCR法をベースとした技術で数少ない腫瘍細胞の高度な検出法を検討してきた。しかし、期待するほどの検出感度が得られているとは言えない。一方で、血中の循環腫瘍細胞の分離回収については、従来の抗体を用いたセルソーター法や免疫磁気ビーズを用いる方法では、上皮性マーカーを発現していない骨軟部肉腫細胞の回収はできなかった。近年、分子マーカーを使用せず、循環腫瘍細胞のサイズと質量の違いにより、流体力学的に赤血球や白血球などの他の血球成分と分離するシステムであるClearCell® FXシステム (Clearbridge BioMedics社・シンガポール) が開発された。本法によりラベルフリーで生きたまま循環腫瘍細胞を濃縮回収できることから、その後の遺伝子発現解析もより高感度に行えるものと推測される。問題点は、まだ実績の少ない検出装置であり、信頼性や再現性が確立していないことと、本体価格が高額であることとなる。すでに現有している施設との交渉を進めており、共同で研究を進めたいと考えている。なお、前述したその他のバイオマーカーを用いた、末梢血による骨軟部肉腫患者の病勢や予後予測に関する研究は順調に進んでいるため、今後も症例を増やし、信頼性を高めていく予定である。
|