研究課題/領域番号 |
16K10854
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
三島 健一 名古屋大学, 医学系研究科, 寄附講座助教 (40646519)
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研究分担者 |
鬼頭 浩史 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (40291174)
杉浦 洋 名古屋大学, 医学部附属病院, 医員 (40750477)
松下 雅樹 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院助教 (60721115)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ランソプラゾール / 骨形成促進 / 人工骨 / 骨欠損 / 骨折 / ドラッグリポジショニング |
研究実績の概要 |
ランソプラゾール含有人工骨の非臨床POC(Proof Of Concept)を取得するため、ウサギを用いた動物実験を行った。共同研究を行っている骨補填材料製造メーカーからβ-TCP素材の 移植用サンプル(上底3 mm×下底5 mm×高さ5 mm×奥行き7 mmの台形柱)の提供を受け、実験を行った。 サンプルに薬剤を吸着させるために用意したランソプラゾール溶液の濃度は0 (control), 10, 25, 40 mMである。この溶液に人工骨を含浸させて薬剤を吸着し、薬剤のburst releaseを防止するためさらに洗浄工程を加えた。各群のNは3とした。 日本白色ウサギの両側後肢の脛骨近位に矩形状の皮質骨部分欠損をサージエアトームで作製し、各サンプルを可及的にpress-fitして埋植した。埋植から4週、8週の時点でサンプルを含む脛骨を回収しレントゲン検査、μ-CT検査、非脱灰骨標本(ビラヌエバゴールドナー染色)による人工骨内の骨新生および走査型電子顕微鏡による材料の生体吸収の各割合を評価した。レントゲン検査とμ-CT検査では、先行研究で認めた材料周囲の透亮像(=炎症性肉芽組織)や明らかな材料の吸収遅延は確認されなかった。材料全体をROI(Region Of Interest)とした組織学的評価を行うと、ランソプラゾール担持群では骨新生は抑制される傾向を示したが、皮質骨部分(材料全体から髄腔内に埋植されている部分を除いた部分)をROIとした評価では、移植後8週で薬剤群(10, 25 mM)においてより多くの新生骨を材料内に認めた。しかし移植後4週ではむしろ材料内の骨新生は抑制傾向を示した。材料内の骨新生と材料の生体吸収の割合は同期しており、薬剤担持によって材料自体の生体吸収性は損なわれなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究に先立って行われた同様の埋植実験では、人工骨を含浸するランソプラゾール溶液の濃度は250mMと400mMであり、今回と比べて高濃度であった。そのため局所に徐放される薬剤濃度は著しく高濃度になったと考えられる。その結果細胞毒性が発揮され、サンプル周囲に線維性肉芽組織が形成される副反応が出現した。本来当該人工材料は連通気孔を豊富に有し、周囲から骨芽細胞や未分化幹細胞、成長因子の侵入を許す構造体であるが、副反応によって被包化されたため、こうした現象が阻害され、材料内外の骨新生促進効果を示すことができなかったと考えられる。本研究ではISOに準拠した細胞毒性試験の結果を踏まえた上で薬剤溶液濃度を下げ、先述の細胞毒性の出現を回避することができた。しかし有効性についてはN数が少ないこともあり統計学的に有意な結果は得られていない。サンプルによっては人工骨内の新生骨量は薬剤担持群で多くなったが、個体差が大きく明らかな有効性を示すことができていない。
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今後の研究の推進方策 |
まず材料の埋植状況が均一ではなかったために結果にばらつきが生じたと考えられる。サンプルによっては皮質骨の掘削範囲が材料よりも大きくなったため材料がpress-fitされず、埋植後次第に材料が髄腔内に落ち込んでいったと考えている。そこで次の動物実験では、材料が埋植後もずれていかないように材料の面取りを増やす形状変更を行い、材料をばらつきなく骨欠損部にpress-fitできるようにする予定である。 移植後8週では薬剤を担持することで骨新生が促進される傾向を示したが、明らかに有意ではなかった。これは材料を含浸するランソプラゾールの溶液濃度がやや低いためと考えている。そこで移植骨を模した人工環境での予備実験を行い、in vitro実験から得られた至適濃度(20μM)で薬剤が徐放されるよう、ランソプラゾール溶液の濃度を再検討する予定である。 本研究では皮質骨欠損部を架橋するように材料内の骨新生が促進されることを期待している。そのため皮質骨部分に焦点を当てた解析が必要と考えられる。今後は皮質骨部分の組織切片を前額断で複数枚作製し、組織学的評価を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度は今年度以上の匹数で動物実験を行う予定のため、研究資金の不足で動物実験が遂行不能になる事態を避けるべく、今年度動物実験で使用した研究費の残金は次年度に繰り越すことにしたため、次年度使用額が生じました。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度の余った研究費は、次年度の実験動物の購入費や非脱灰骨組織標本作製の外注費に充てる予定です。
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