研究実績の概要 |
悪性骨軟部腫瘍の予後は、化学療法の効果にかかっており、現状の打開には新たな薬物の開発か、高濃度の薬物を腫瘍に集積させるDrug delivery system(DDS)の開発が必須である。注目すべき腫瘍の特異的な現象の一つに、腫瘍組織の酸性化がある。腫瘍細胞による糖摂取の著しい増加と嫌気性解糖による乳酸からのH+の産生によるとされている。実際、当科でのデータでは、悪性骨軟部腫瘍患者における腫瘍内pHは6.0-6.9に分布し、そのほとんどがpH6.7周辺に集中している。本研究はpH6-6.9をターゲットとし、pH反応性脂質を用いてH6.9以下で崩壊し、サイズを70-100nm にすることでEPR効果(Enhanced permeability and retention effect)効果を有し、PEGを含有させることで循環血液中での長期滞留性(ステルス性)を有するpH反応性リポソームを作成することを目的とした。 今回、その第一段階であるリポソームの作成であり、超音波処理法(凍結融解あり、なし)、およびボルテックス処理法(凍結融解あり、なし)にて作成した。リポソームのサイズは、いずれの作成法によっても概ね100nmであった。ただし、リポソーム作成工程において、使用した脂質の大幅なロス、およびHPTS(8-Hydroxypyrene-1, 3, 6-Trisulfonic Acid, Trisodium Salt) の封入率が1% 以下と非常に低い結果であった。今後、脂質ロスの改善、封入率の向上のため、作成工程の調整が必要である。また、pHに対する反応は、pH6.9で漏出が見られ、pH7.4で漏出が見られなかった。 今後、pH6.7 で漏出が見られpH7.0 以上で漏出が見られないような脂質組成比を決定する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.pH 応答性リポソームの作成 蛍光物質を内包するpH 応答性リポソームを、脂質はEPC、DSPE-PG8MG、内包化合物はHPTS、DPXを使用し、超音波処理法(凍結融解あり、なし)、およびボルテックス処理法(凍結融解あり、なし)にて作成した。リポソームの物性確認を、①粒子径(nm)、②リポソーム脂質濃度(mg/ml)、③内包化合物濃度(uM)、④内包率(%)の定量をおこなった。結果:超音波処理法(凍結融解あり)①118.8,②3.52,③183.5,④0.62,(凍結融解なし)①90.62,②8.38,③138.8,④0.31。ボルテックス処理法(凍結融解あり)①119.7,②3.14,③166.6,④0.54,(凍結融解なし)①131.4,②3.18,③187.6,④0.65であった。 2. pHに対する反応性の検討 1で作成したpH応答性リポソームを用いて、①リン緩衝液 (pH8.0-6.3) または酢酸緩衝液(pH5.7-4.96) に添加し、傾向強度を測定した(A)。②20 分後に 10% Triton X-100 を添加し蛍光強度を測定した(B)。③リポソームからの HPTS のリリース率は次の式から算出した。Release 率 (%) = 各時間での蛍光強度 (A) / Triton 処理後の蛍光強度 (B) x 100。結果:超音波処理法によるリポソーム:pH6.3以上では漏出が見られなかったが、pH5.7では経時的に反応し、5分で50%、10分で80%の漏出が見られた。pH4.96では、0分で50%が漏出した。ボルテックス処理法(凍結融解あり)によるリポソーム:15分後の評価では、pH8, 7.4では反応しなかったが、pH6.9以下では、70%以上が漏出した。ボルテックス処理法(凍結融解なし)によるリポソーム:凍結融解ありとほぼ同様の結果であった。
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