悪性骨軟部腫瘍患者における腫瘍内pHは6.0-6.9に分布し、そのほとんどがpH6.7周辺に集中しており、正常組織である筋肉組織:pH7.2、脂肪組織:7.4 である。そのため、pH6.9以下は悪性腫瘍特異的環境であり、pH6.9以下でのみ薬物を放出することができれば、腫瘍環境特異的drug deliveryが可能となる。 そこで、低pHに反応する輸送体として、リポソームを選択した。pH反応性脂質を含有させることでpHに依存したリポソーム内の薬物の放出が可能となる。本研究のリポソームのコンセプトとして、ポリエチレングリコール(PEG)を含有することで免疫網内系からの回避、直径100nm以下にすることで腫瘍内異常血管の間隙を通過して腫瘍組織に蓄積し、pH6.7以下で薬物を放出するリポソームをデザインした。最終的に、PEGを含有し、直径100nm周辺、pH6.7で70%の薬物を放出するpH反応性リポソームの作成に成功した。このリポソームを骨肉腫細胞の背部移植マウスモデルに静脈注射し、IVIS in vivo imagingにて、リポソームの腫瘍組織への集積性を認めた。リポソームにMethotrexate(MTx)を封入し、同様のマウスモデルに静脈注射したところ、リポソームに毒性があり、一定量以上の投与にてマウスが死亡することがわかった。 in vitro での細胞への効果を検討するため、MTx封入pH応答性リポソーム、MTX封入pH非応答性リポソーム及び薬剤なしのcontrolリポソームを作成した。これらのリポソームをヒト骨肉腫細胞株に投与し、24時間培養後に細胞数評価を行なった。その結果、MTX封入pH応答性リポソームは、低pHによるMTxの放出のみならず、高pHでもエンドサイトーシスによりリポソームをがん細胞内へ取り込むことでMTxがdeliveryされていると考えられた。
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