がん特異的に増殖・殺傷するよう遺伝子改変した「腫瘍溶解性ウイルス」(OV)に、免疫誘導遺伝子を搭載して劇的な癌免疫誘導を可能とする「腫瘍溶解性免疫治療(がん免疫遺伝子・ウイルス治療)」は2015年末の欧米医薬承認のように、革新的な癌免疫治療の研究分野として世界的に期待されている。当研究室では、従来技術を凌ぐ次世代OVを網羅的に作製・解析可能な唯一のプラットフォーム技術の「多因子制御の増殖型アデノウイルス:m-CRA」を独自開発した。実際にスクリーニング的に見出した第一弾医薬のSurv.m-CRAは、既存・競合医薬の性能を凌ぎ、標準治療無効の骨軟部肉腫を対象とした本学でのFirst-in-humanの医師主導治験でも有望な治験効果を示しつつある。 本研究では、局所治療で全身性抗腫瘍免疫を効率よく誘導して転移癌も治療でき、安全性と治療効果で競合技術を凌駕する、免疫誘導遺伝子搭載の新規Surv.m-CRAの開発を目的とする。平成30年度までに、種々のマウス免疫誘導遺伝子搭載Surv.m-CRAを開発し、アデノウイルスが部分的に増殖可能なシンジェニックハムスターモデルにおいて腫瘍抑制効果を明らかにした。さらに、搭載した免疫誘導遺伝子の至適発現レベルの重要性を示唆するデータを得ている。 本年度は、さらに以下の成果を得た。 1)シンジェニックハムスターモデルを用いたリチャレンジテストの結果、当該免疫誘導遺伝子搭載Surv.m-CRA投与により全身性免疫の誘導が示唆された。 2)ヒトの当該免疫誘導遺伝子を搭載したSurv.m-CRAがハムスターモデルにおいても免疫活性化を誘導する傾向が得られた。 これらの結果から、本ウイルスの革新的な遺伝子・ウイルス治療薬としての有効性及び安全性が示唆され、標準ハムスターモデルを用いた非臨床開発への進展が可能であることが示唆された。
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