研究課題
本研究は、「希少がん」としての軟部肉腫の病態に関する分子機構を明らかにし、既存治療薬の適応拡大および新規治療薬開発の道を開くことを目的とする。軟部肉腫は、局所再発や肺転移・リンパ節転移などの遠隔転移を生じることが多く、このような場合は、化学療法が治療の重要な位置を占める。しかし、1970年代に、軟部肉腫に対する化学療法剤として、ドキソルビシンとイフォスファミドの2剤が導入されて以降、長きにわたり保険承認が得られた新規薬剤は開発されなかった。その理由として、軟部肉腫の希少性から、病態に関わる分子機構の解明が十分になされなかったことが挙げられる。近年、血管新生阻害剤に位置づけられるパゾパニブの開発から始まり、トラベクテジン、エリブリンなど、軟部肉腫に適応を取得した新規薬剤が登場し、本領域の開発研究が本格化している。しかし、他のがん領域と比較すると、圧倒的に少ない治療選択肢であることに違いはなく、予後不良の進行軟部肉腫の患者にとって、まだ福音がもたらされたとは言えない状況である。我々は、これまでに蛍光2次元電気泳動法を用いたタンパク質網羅的解析(プロテオミクス解析)と遺伝子解析を用いて、様々な肉腫の診断・予後予測・化学療法奏功性予測のバイオマーカー・治療標的因子・ドライバー遺伝子の同定を目的に研究を推進してきた。そこで本研究では、軟部肉腫のセンター的役割を担っている当施設および関連施設に蓄積された豊富な臨床検体を用いて、オミクス研究としての網羅的発現解析により軟部肉腫の病態に関わる分子機構を明らかにし、治療標的因子を同定することである。そして、これらの研究結果が、軟部肉腫に対する治療薬開発の一助になることを目的とする。
3: やや遅れている
平成29年度 転移の有無、予後良好・不良、再発の有無、化学療法奏功性・抵抗性など異なる病態の軟部肉腫臨床検体からタンパク質とRNAの抽出作業を行った。それぞれの病態に関して各10検体ずつを目標としていたが、予後不良例・化学療法抵抗例において検体の集積・蓄積が遅れたため研究全体にやや遅れを生じた。一方で、集積・蓄積が進んでいる予後良好例の検体については、タンパク質とRNAの抽出作業を終了していた 。すべての病態群の検体準備が終わった後に、各々の検体から抽出した等量のタンパク質を混合した内部標準サンプルを作製しCy3で標識し、個別の解析サンプルはCy5で標識しサンプルを混合した後、大型ゲル二次元電気泳動法あるいは分子マトリックス膜電気泳動法で分離し、観察される約5000個のタンパク質スポットの中から軟部肉腫の病態に特徴的なタンパク質スポットを選別した。選別したタンパク質スポットをゲルあるいは膜から切り出しペプチド化し、質量分析装置で測定される精密質量のデータによって、現在タンパク質同定を行っている。mRNAの発現解析はアフィメトリック社の GeneChip Human Genome U133 Pus 2.0 Arrayを用いて行う。
平成30年度 予後不良例および化学療法抵抗性を含むすべての病態群から抽出したタンパク質を大型ゲル二次元電気泳動法あるいは分子マトリックス膜電気泳動法で分離し、観察された約5000個のタンパク質スポットの中から軟部肉腫の病態に特徴的なタンパク質スポットを選別を進め、選別したタンパク質スポットをゲルあるいは膜から切り出しペプチド化し、質量分析装置で測定される精密質量のデータによってタンパク質同定をおこなう。mRNAの発現解析はアフィメトリック社の GeneChip Human Geno me U133 Pus 2.0 Arrayを用いて進める。バイオマーカーや治療標的として有用性が予測されるタンパク質に関しては、その抗体を作製し代表症例のパラフィンブロックを用いて免疫染色を行い、有用性の検証を行う。この場合、発現の有無のみならず、腫瘍全体の発現分布を検討し、腫瘍の浸潤先進部位と中心部の差異についての確認も行う。
(理由)転移の有無、予後良好・不良など異なる病態のすべての軟部肉腫臨床検体群からタンパク質の抽出を行う予定であったが。予後不良群と化学療法抵抗群の検体集積が不足していたため解析に後れを生じた。(使用計画)現在、すべての臨床検体群からタンパク質の抽出が終わっており、サンプル調整を行い大型ゲル二次元電気泳動法あるいは分子マトリックス膜電気泳動法で分離し、観察される約5000個のタンパク質スポットの中から軟部肉腫の病態に特徴的なタンパク質スポットを選別している。順次、選別したタンパク質スポットをゲルあるいは膜から切り出しペプチド化し、質量分析装置で測定される 精密質量のデータによってタンパク質同定を行う。臨床的にバイオマーカーや治療標的因子として有用性が予想されるタンパク質に関しては、抗体を作製し、臨床検体のパラフィンブロックを用いて免疫染色を行い検証を進める予定である。mRNAの発現解析はアフィメトリック 社の GeneChip Human Genome U133 Pus 2.0 Arrayを用い、全RNAから逆転写酵素を用いてcDNAを作成し、in vitroでの転写でビオチンを標識したcDNAを精製する。近年の次世代シークエンサーの普及により、遺伝子パネルを用いた解析も追加し、ドライバー遺伝子の同定も追加する予定である。次年度は、以上を目標に研究を進める予定である。
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