研究課題
高齢者において転倒や骨折に伴う筋損傷からの回復の遅れは、要介護状態への進行の主要原因であり、健康寿命延伸のために解決すべき重要課題である。我々は、再生過程筋組織におけるpro-IGF-IIの発現低下が、加齢による筋再生能力低下の一因であり、pro-IGF-IIの補充は骨格筋幹細胞の増殖促進や間葉系前駆細胞の脂肪分化抑制を介して、老化マウスの筋再生能力を改善することを見出した (Stem Cells, 2015)。本研究では、pro-IGF-IIによる筋再生促進メカニズムを解明するために、骨格筋幹細胞と間葉系前駆細胞におけるpro-IGF-II下流シグナルの解析を行う。ヒトへの臨床応用を視野に入れ、ヒト由来細胞を用いた実験系の構築に取り組んだ。その結果、ヒト骨格筋から高精度に骨格筋幹細胞と間葉系前駆細胞を単離する方法、及び、単離された細胞を継代・培養しin vitroで増幅できる条件の確立に成功した。そこでまず、ヒト骨格筋幹細胞と間葉系前駆細胞を用いて、増殖・分化に対するpro-IGF-IIの影響を調べた。マウスで見られた効果と同様、ヒト細胞においても、pro-IGF-IIは骨格筋幹細胞の増殖を促進した。また、濃度依存的に間葉系前駆細胞の脂肪分化を抑制し、その効果はmature IGF-IIでは全く見られず、pro-IGF-IIに特異的な効果であることを見出した。さらに、間葉系前駆細胞においてpro-IGF-IIシグナルの下流に位置し、脂肪分化を強力に抑制する候補因子を同定した。この因子には骨格筋幹細胞に対する増殖促進効果は見られなかったが、pro-IGF-IIの癌細胞増殖促進作用をキャンセルできる可能性があり、この因子の投与は高齢者の筋再生能力改善のためのより安全な治療法となる可能性がある。
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