研究課題/領域番号 |
16K10882
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
橋本 功 東北大学, 医学系研究科, 講師 (00718497)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 変形性関節症 / 軟骨細胞 / 遺伝子発現 / 網羅的解析 / マイクロアレイ |
研究実績の概要 |
研究責任者が以前欧米人の大腿骨頭を用いた研究において、健常軟骨細胞と比較して、変形性股関節症(股関節OA)の軟骨細胞でインターロイキン-1b(IL1B)遺伝子の発現が著明に亢進していいることを確認した。その遺伝子発現調節機構に関して、IL1B遺伝子のプロモーター領域におけるDNAメチル化の関与を解明する目的で研究を開始した。一方、今回の研究では日本人の股関節OAの軟骨細胞において、IL1B発現に著明な亢進がみられないことが判明した。 このためまず欧米人と日本人のOA軟骨細胞の遺伝子発現パターンの違いを検証した。日本人の非OA大腿骨頭8検体、OA骨頭12検体から核酸を抽出し、マイクロアレイによる網羅的遺伝子解析を行った。さらに過去に欧米人検体で報告されたOA軟骨細胞の遺伝子発現パターンと比較した。解析した全24,460遺伝子のうち,非OA群よりOA群で発現が上昇したものは888遺伝子,低下したものは732遺伝子であった.OA群で顕著な発現を示した遺伝子はII型コラーゲン (COL2AI) などの細胞外基質を構成する因子を多く含んでいた.OAで発現が亢進している遺伝子のうち,欧米人の一次性OAと共通しているものは10%のみであった.日本の二次性股関節OA軟骨細胞で著明な発現上昇を示した新規遺伝子として,DPT, IGFBP7,KLF2が同定された.欧米人OAと共通した有意なpathwayとして,ECM-receptor interaction pathway等が同定された. 上記の結果を論文「A whole-genome transcriptome analysis of articular chondrocytes in secondary osteoarthritis of the hip(PLoS One. 2018; 13(6): e0199734.)」として公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記の通り、研究の前提となる「OA軟骨細胞におけるIL1B遺伝子の過剰発現」が日本人OA軟骨細胞でみられなかったことから、まずOA軟骨細胞における遺伝子発現パターンの解析から開始することとなった。その後、日本人の変形性関節症に特異的な発現遺伝子の絞り込みを行っており、DPT・IGFBP7・KLF2などの有力遺伝子が同定されたが、これらの作用メカニズムについての解析作業が滞っている。以上の点が、今回の研究において計画と異なる展開となった最も大きな要因である。
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今後の研究の推進方策 |
上記で同定された遺伝子群の、軟骨細胞における機能解析を行う。具体的には、上記の遺伝子群は転写因子として知られるタンパクをコードする遺伝子である。このため変形性関節症の軟骨細胞において上記の因子がどのような遺伝子の発現に影響を与えているかについて、転写因子データベースとクラスター解析の照合作業を行う。上記転写因子が発現調節に関与し、かつ変形性関節症に特異的に発現すると考えられる遺伝子について、その機能解析および遺伝子プロモーター領域における転写因子との結合能の検証を行う(ChIP assay)。さらには、当該領域のDNAメチル化状態と転写因子の結合能の関連を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度はそれまでに得られたマイクロアレイ解析の結果を元に、データベース上での解析作業を行い、更には論文作成に注力していたため、消耗品等に関しての支出がなかった。このため平成31年度への繰越金が生じている。平成31年度は、前年までに同定された股関節OAで優位に発現亢進した転写因子の機能解析に必要な消耗品の購入、さらには学会・論文発表のための費用として資金を利用する予定である。
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