研究実績の概要 |
先に確立した軟骨部分損傷Partial-thickness cartilage defects (PTCDs)作成法に従い、必要数の動物モデルを作成した。研究計画に従い、3, 6, 10, 14週齢の雄性Sprague Dawley (SD)ラットの膝関節に対し、100μの深さでPTCDを大腿骨内側顆部軟骨に線状に作成したのである。作成後1日、1, 2, 4, 12週経過時の損傷に対する自然経過を組織学的に検討した。各群各タイムポイントで6匹屠殺し検討を行った(総計n=96)。 その結果、3週齢ラットでは4週経過時点でほぼ完全な治癒が自然に得られていた。6週齢においても治癒は良好でありほぼ正常に近い治癒が観察された。10週齢では4週経過時に表層のサフラニン-O染色性が一部悪く、経過とともに染色性の悪い部位が拡大した。14週齢となると12週経過時に軟骨表層のサフラニン-O染色性が広い範囲で低下していた。また、4週間経過時と12週間経過時において、週齢による4種の週齢の損傷群の組織スコアは有意差があり、4週時点で組織学的評価をすることで治癒の程度を判定することが可能であると考えられた。 この結果を元に、自然に治癒することがない14週齢のラットPTCDモデルに対する介入研究を開始した。介入方法としてはmesenchymal stem cell (MSC)の関節内投与、platelet rich plasma (PRP)の投与、MSCsとPRPの併用投与である。その結果、MSCs投与とMSCs+PRP投与群においては、14週齢ラットにおいても6週齢ラットの自然経過に匹敵するほどの治癒が得られることがわかったが、PRP投与では10週齢ラットに匹敵する程度の治癒が認められることがわかった。また、MSCsを投与した場合、滑膜組織の肥厚が見られることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
以下の3つの研究を進める予定である。 1)MSCs投与時期に関する検討:PTCDに対する介入としてMSCsの関節内投与が高い効果を有することが明らかとなったが、投与はPTCDの作成時に投与をしたものである。そこで投与時期をずらした場合においてもMSCsの投与が治癒効果を上げるか否かを検討することとした。そのために雄性SDラット14週齢に対し、PTCDを作成し、①PTCD作成と同時投与、②PTCD作成後1週後に投与、③PTCD作成後2週後に投与、という3群を用意し、PTCD作成後6週間経過時にラットを屠殺し、PTCDの治癒状況を組織学的に検討することを計画した。各群に6匹のラットを用いることとした。 2)MSCsの分布の検討:MSCsを関節内に投与した場合にその分布がどうなるかを調べるためにMSCsを標識し、PTCDを作成したラットの関節内に投与し、3時間後、24時間後、1週間後に屠殺し、組織学的に検討することとした。MSCを蛍光標識するためにPKH26 red fluorescent cell linker kit (Sigma-Aldrich, St. Louis, MO, USA) を用いることとした。投与するMSCは介入時と同様に1.0×106個を予定した。蛍光での観察のため、組織はKawamoto法により作成した新鮮凍結切片での観察とする。 3)滑膜組織の組織学的検討、遺伝子発現の検討:MSCsを投与した場合、滑膜組織の肥厚が見られることがわかった。そのため、より詳細に経時的な変化を組織学的に検討すること、また、投与群と非投与群での滑膜組織における遺伝子発現の差異をマイクロアレーにて検討することとした。
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