肩・肘関節において、既存の解剖研究においてはあまり着目されることのなかった「関節包」構造に基づいて、特にその膜厚や付着幅、関節周囲の筋・腱構造との関連性を明らかにした。 1)肩関節:肩関節「関節包」の上腕骨ならびに肩甲骨関節窩における付着部と関節包自体の膜厚との関係に関する研究を施行した。上腕骨側において、肩甲下筋腱下縁、腋窩嚢、棘下筋ー小円筋境界などで、関節包付着幅の広い部分が定量化でき、さらにはそれらの部位、特に腋窩嚢に対応する関節包膜厚の厚い部位との対応を明らかにした。下関節上腕靱帯と呼ばれる構造は、既知のシェーマにえががれる関節内の束状構造は、実際は連続するシート状構造の厚い部位の端を示していると解釈できる。 2)肘関節:肘関節内側においては円回内筋、浅指屈筋、尺側手根屈筋や上腕筋の腱膜が互いに結合して、共通腱膜構造を形成し安定化を図っていることを明らかにした。さらにその深層では「関節包」が近位において折れ返り滑液腔を形成しているのに対し、遠位においては共通腱膜と結合して肘関節内側を被覆していた。前述の共通腱膜構造や「関節包」と上腕骨内側上顆や尺骨鉤状突起結節などの骨形態との立体的配置を明らかにするために、マイクロCTによる解析を行ったところ、前方の共通腱膜は鉤状突起結節の前方、後方の共通腱膜は鉤状突起結節の後方に対応していることを明らかにした。鉤状突起レベルにおける軸位断の解析により、既存の尺側側副靱帯前束と呼ばれる構造は、前述の共通腱膜の一部であることが明らかとなった。よって、肘関節内側の安定化や疼痛の改善のためには、静的構造を外科的に再建する前に、リハビリテーションなどにより動的安定化の機能を調整することで愁訴の改善が得られる可能性を示唆できる。
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