研究課題/領域番号 |
16K10891
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
大関 信武 東京医科歯科大学, 再生医療研究センター, プロジェクト助教 (10755359)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 半月板 / MRI / バイオメカニクス / 腱移植 |
研究実績の概要 |
先行研究では、半月板欠損部に腱移植と滑膜幹細胞移植を同時に行うことで、移植した腱と周囲組織との癒合が促進し、早期より機能する半月板が再生し、BMP-7を移植時に腱に投与すると、移植後に腱の中の細胞が軟骨分化し、より半月板に近い細胞を誘導することができた。しかし、移植時点ですでに軟骨分化させた細胞を含む腱を移植する方が、より正常に近い半月板を再生できると考え、事前に軟骨細胞を誘導するように培養した腱を作成するための最適化を行うこととした。そこで、臨床でも使用されているBMP-2を添加した軟骨分化培地を用意し、その中で腱と滑膜幹細胞を培養し、半月板欠損部に腱を移植する前に、軟骨分化させることをラットの実験系を用いて検討した。この条件で1週間培養すると、DiIでラベルした滑膜幹細胞が腱周囲に生着することが確認でき、またサフラニンO染色により、これらの生着した細胞が軟骨細胞に分化して、軟骨基質を産生していることが分かった。3週間培養すると、サフラニンOの染色性が上昇し、より多くの軟骨基質を産生するケースもあったが、コラーゲン線維が乱れることによりその形態を維持できないケースも多く、これらの結果より、移植する腱の最適な条件として、1週間BMP-2を含む軟骨分化培地で滑膜幹細胞と培養させることであることが確認できた。 また、先行研究で行った新鮮凍結ブタ膝のバイオメカニクスでは、屈曲45度の条件だけであったが、実際に歩行時にはさまざまな角度で荷重が加わることから、30度、60度、90度の条件を追加してバイオメカニクスの実験を行った。この検討により、半月板切除を行い欠損部があるとどの角度においても荷重が脛骨中央に集中することや、腱移植を行うことにより荷重分散を改善することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
より良い半月板再生を実現するために、臨床でも使用されているBMP-2を添加した軟骨分化培地の中で腱と滑膜幹細胞を共培養し、腱を移植前に軟骨分化させた状態で半月板欠損部に移植するための最適条件を検討し、その条件を決定することができた。1週間通常の培地で滑膜幹細胞と培養すると、DiIでラベルした滑膜幹細胞が腱周囲に生着することが確認できたが、軟骨分化は生じなかった。しかし、BMP-2を添加した軟骨分化培地で1週間培養すると、腱の周囲を中心としたサフラニンOでよく染色される組織となり、この領域には軟骨様細胞を認めることから、生着した細胞が軟骨細胞に分化し、軟骨基質を産生していると考えられた。一方、3週間培養すると、サフラニンOの染色性は腱全体に上昇し、より多くの軟骨基質を産生するケースも認めたが、コラーゲン線維の配向が乱れることによりその形態を維持できず、移植に耐えうる組織でなくなるケースも散見された。これらの結果より、1週間BMP-2を含む軟骨分化培地で滑膜幹細胞と培養させることが移植する腱の最適な条件として決定できた。 また、先行研究で行ったブタ膝のバイオメカニクスは屈曲45度の条件だけであったが、実際に歩行時にはさまざまな角度で荷重が加わることから、30度、60度、90度の条件を追加してバイオメカニクスの実験を行った。正常、半月板欠損、腱移植群の3群を作成し、セメントを用いて膝関節を万能試験機に取り付け、大腿骨側より脛骨側に200Nの荷重をかけ、圧力分散計測システムであるTekscanのシートを大腿骨と脛骨の間に挿入した。この検討により、半月板欠損がある場合、どの膝関節屈曲角度においても荷重が脛骨中央に集中することがわかった。また腱移植を行うことにより改善する荷重分散機能が、どの角度でも認められることが分かり、歩行動作における本術式の有効性を証明することができた。
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今後の研究の推進方策 |
マイクロミニピッグの再生半月板を評価するには組織学所見とMRIを対比させる必要があり、最適なMRIを得るための条件を設定し、さらに質的にも評価することが重要となる。これまでのマイクロミニピッグを用いた実験では、プロトン強調画像および軟骨条件の2つの撮像のMRI撮像条件を用い、それぞれにおいて最適なシーケンスを設定していた。しかし、半月板内部の質を評価するには質的評価であるT2 mappingを行うことが望ましく、その質的評価法を確立する必要がある。現在、正常の膝を用いて質的評価の検討を開始しており、最適な再生半月板の評価法を確立していく。 また、現在検討を行ってきたバイオメカニクスの実験では、半月板欠損を作成あるいは腱の移植手術を行ったタイムゼロの時点での検討であり、荷重も1回かけた時の評価を行ってきた。しかし、臨床において膝関節に加わる荷重を考慮した時、歩行やランニングによる繰り返しの荷重が加わることが想定され、バイオメカニクスの検討においても、腱移植に使用した縫合糸の張力の耐久性を含めて、繰り返し荷重に対する検討を行っていく必要がある。数万回の繰り返し負荷をかけるためには、現行の万能試験機で検討が可能であるが、膝関節組織が腐敗あるいは乾燥しない環境で維持される必要があり、リン酸緩衝溶液などに浸した状態でバイオメカニクスを検討できるシステムを構築している。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会参加で計上していた旅費が、他の予算で執行できたため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
バイオメカニクスの検討において、繰り返し荷重を調べる際の実験系の構築に生じる費用に使用する予定である。
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