研究課題
半月板欠損部に移植する腱に関して、BMP-2を添加した軟骨分化培地中で滑膜幹細胞を腱と1週間培養すると、サフラニンO染色で軟骨基質を産生しており、3週間培養すると、サフラニンOの染色性の上昇を認め、腱は軟骨分化を示した。これは、BMP-2などの軟骨分化を促進する成長因子と同時に腱を培養することの重要性を示唆していた。組織学的検討のみでなく、軟骨分化を生じた腱がどのような生体力学的特性を保有しているかを検証する必要もあると考え、今回、万能試験機を用いた検証を行った。引張試験では、通常の腱よりも引き伸ばされ、引き抜き強度が上昇していることが分かった。腱のpropertyがどのように変化しているかをさらに検証するため、PCRを行い、Type IIコラーゲンのほか、グリコサミノグリカン、SOX-9など軟骨分化に影響する遺伝子発現が上昇していることが分かった。本腱をラットの半月板欠損部に移植する実験を行うと、半月板欠損部は被覆され、また軟骨基質を産生する半月板が再生していた。本腱の移植により、軟骨損傷の進行を抑制しており、変形性膝関節症の進行を遅らせる効果があることが示唆された。ブタ膝に移植するにあたって、より実臨床に即した検討が重要との観点を考慮すると、半月板欠損は半月板切除を受けた後に生じていることが一般的であり、その際半月板の位置異常である半月板逸脱が生じている。半月板逸脱に対しては半月板を内方化する手術が行われる。今回、実臨床を想定し、逸脱した半月板をアンカーを用いて内方化させる手技のバイオメカニクスの検討を行った。半月板が逸脱した状態では、荷重が脛骨中央部に集中したが、内方化することで正常に近い荷重分布を示すことが分かった。本技術を半月板移植時に応用することで、より正常に近い半月板をつくることができると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
実際の臨床現場でより正常に近い膝関節機能を得るための半月板を再生させるためには、半月板欠損にともなう半月板逸脱に対する処置も行う必要がある。半月板逸脱により、クッョンの役割や荷重分散機能を果たさず、軟骨の変性・損傷が進行するためであり、今回、半月板逸脱に対する生体力学的検討も行った。圧力分散計測システムであるTekscanのシートを大腿骨と脛骨の間に挿入して行う本検証により、半月板の位置異常である半月板逸脱が、半月板の荷重分散機能を低下させることが分かり、脛骨中央部に荷重負荷が集中することが分かった。また、臨床でも行われている半月板内方化の手技が半月板の荷重分散機能を改善させることを検証することができ、多くの半月板切除後に生じる半月板欠損部に対して、腱移植だけでなく半月板の機能を改善させる必要があることが分かった。また、使用されているBMP-2を添加した軟骨分化培地の中で腱を培養することにより、軟骨基質の産生やtype IIコラーゲンの発現上昇を認め、組織学的により半月板に近い組織に変化したことに加え、今回の検証から腱の生体力学的特性も変化することが分かった。このことにより、BMP-2を用いて軟骨分化をさせることで、より正常半月板に近い生体力学的性質を獲得できることが分かった。これにより、半月板の代替材料として、軟骨分化誘導をかけた腱を移植することが妥当であることの裏付けがさらに得られたことになる。滑膜幹細胞と培養しない条件でも軟骨分化培地中で腱を培養すると軟骨分化している細胞があるということであり、腱に内在する腱細胞がBMP-2の作用により軟骨分化を起こしたと考えられ、今後の検証は滑膜幹細胞を用いない状態でも軟骨分化させた腱を用いれば半月板再生が可能と考えられた。
マイクロミニピッグを用いた実験では、もっとも臨床に近い形での検証を行う必要があると考え、半月板欠損に伴い生じることの多い半月板逸脱に関する検証を行うことができた。生体力学的検証では、半月板逸脱により荷重が脛骨中央部に集中し、同部の軟骨変性・損傷が発生し進行することがわかり、また半月板逸脱を改善させる内方化により荷重分散機能を改善させることが分かった。今後は、半月板欠損および逸脱を同時に生じている場合、これを両方治す場合の生体力学的特性を検証する必要がある。現在、様々な膝関節角度で荷重分散機能を検証するシステムは構築できており、半月板欠損部に対する軟骨分化させた腱を用いた移植術およびその半月板に位置異常を生じさせないための半月板内方化を行うことで、正常に近い膝関節機能を獲得できるか検証する。また、腱を半月板に近い軟骨分化をさせるには、BMP-2などの成長因子が最も重要であることがわかり、腱の生体力学的特性を変化させることも検証できた。今後は、半月板欠損部に移植した腱が、軟骨分化させた時と同等の力学的特性を維持できるかどうか、移植した後の腱にどのような遺伝子発現変化が生じるかについても検証していく。また、移植した腱には周囲から細胞が生着し、埋入していくことが想定されるが、これらの細胞も腱に生着することで軟骨分化していくのか、細胞動態についての解析も重要であり、われわれが先行研究において用いたLacZ遺伝子改変ラットなどを用いた解析が有用であると考える。正常に近い半月板を再生することで軟骨変性・損傷を予防できる、ということが変形性膝関節症を予防の観点からは重要であるため、軟骨を肉眼的・組織学的・MRIを用いて多方面での解析を行うほか、軟骨自体の荷重に対する生体力学的特性に関して、圧力分散計測システムを用いた評価を行う。
(理由)学会参加で計上していた旅費が、他の予算で執行できたため、次年度使用額が生じた。(使用計画)現在、バイオメカニクスの検討は関節を切開して圧センサーを挿入して行っている。関節を切開せず、より小さな孔から関節内に圧センサーを挿入することが可能になれば、より正常に近い生体力学的検証が可能となる。関節を切開しない生体力学的な実験系の構築に使用する。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件)
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