羊膜は抗炎症効果や線維化抑制効果を持つことから創傷治療への応用が有用であるとされている。PLGA三次元担体に羊膜由来細胞外基質をコートした新たな治療材料(ECM-PLGA)を開発し、ラット骨軟骨欠損モデルにおいて一定の軟骨修復促進効果を持つことを確認したため、その修復メカニズムについての解析を行っている。関節内の炎症において、滑膜中マクロファージが重要なエフェクターとして働いており、種々の炎症性サイトカイン分泌などを介したシグナルによって関節内炎症環境の調節を担っているとの報告が相次いでいる。羊膜由来細胞外基質が持つ抗炎症効果や組織修復効果も、同様にマクロファージを介した細胞間シグナルに依存している可能性が高いと考え、マクロファージ分化に羊膜細胞外基質がどのように関わっているかを調べる実験を行った。ヒト末梢血から分離・培養したCD14陽性単球をM-CSF添加培養によりマクロファージへ分化誘導し、ECM-PLGAとの共培養モデルにてマクロファージの表現型(M1/M2)解析を行った。 炎症性マクロファージ(M1マクロファージ)のマーカー遺伝子であるCD80、CD83および抗炎症性マクロファージ(M2)のマーカー遺伝子であるCD163、CD206 の発現比(M1/M2比)についてECM-PLGAを置かないコントロールと比較したところ、ECM-PLGAとの共培養においてよりM1/M2比が高い結果となった。さらに培養上清中の炎症性サイトカインの濃度をELISA法により計測したところ、ECM-PLGAとマクロファージを共培養した方が、マクロファージ単独で培養を行った場合よりもIL-1bおよびIL-6の濃度が高い結果となった。以上より、ECM-PLGAとの接触によりマクロファージはよりM1の表現型を示しやすく、炎症性サイトカインの産生も高まると考えられ、実験前の仮説とは異なる結果となった。
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