研究課題/領域番号 |
16K10911
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
雪澤 洋平 横浜市立大学, 医学研究科, 客員研究員 (30622352)
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研究分担者 |
小林 直実 横浜市立大学, 附属病院, 講師 (20453045)
稲葉 裕 横浜市立大学, 附属病院, 准教授 (40336574)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 人工関節周囲感染 / リアルタイムPCR / 関節液分析 / 顆粒球エラスターゼ |
研究実績の概要 |
人工関節周囲感染(PJI)は人工関節において最も重大な合併症の一つであり、診断および治療に難渋することが多い。特に治療方針を決定する際に診断は重要である。PJIの診断には血液検査、関節液検査、画像診断、組織診断など、さまざまな検査がされている。診断の基本となるのは細菌培養検査であるが、過去の報告によると細菌培養陰性例であっても感染していることは少なくなく、細菌培養検査だけでは診断が困難な場合がある。その原因としては抗菌薬投与やインプラントに関連したバイオフィルム形成が問題であると報告されている。そこでわれわれは人工関節周囲感染診断においてpolymerase chain reaction (PCR)を導入し研究をしてきた。しかしPCR法はコストや時間の面においてデメリットがあると報告されている。さらに現在の診断基準だけでは診断できない人工関節周囲感染も報告されており、近年ではPCR法に加え、関節液分析や顆粒球エラスターゼキットに関する研究も行っている。今後、これらは簡便で安価であるため、外来や手術中などにおいて広い普及が予想される。 本研究の目的のは人工関節周囲感染を中心とする整形外科領域の感染症に対して、新たに導入したMultiplex リアルタイムPCR法の有用性を検討し、さらに臨床分離菌株を用いて、現在使用しているプライマー、プローブの菌種の検出範囲を検討することである。またもう一つの目的としては関節液分析や顆粒球エラスターゼキットに関する研究においても同様に、整形外科領域におけるインプラント関連感染症に対しての有用性を検討することである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Multiplex リアルタイムPCR法は培養陰性であるが感染と診断された場合など、起因菌の同定が不能な場合において、起因菌の同定が可能になる症例があることを報告し有用性が高い検査であった。また今回開発したプライマーおよびプローブは従来と比べて安価になり、整形外科における主な起因菌がカバーされており有用性が高かった。これは国内だけでなく海外学会にも発表しており、2016年に川村らがModern RheumatologyにおいてUsefulness of a new multiplex real-time polymerase chain reaction assay for the diagnosis of periprosthetic joint infectionとして報告した。 関節液分析では特に関節期中のCRPにおいて、血液検査ではわからない局所感染の同定において高い有用性を持っている検査であった。これは診断基準に含まれている関節液中の好中球分画や白血球数より感度、特異度ともに高く有用性が高かった。顆粒球エラスターゼキットに関しては簡便であり、検体採取において関節液だけでなく組織やインプラント表面からも可能である。いまだ感度に関しては改善の余地はあるが、高い特異度を持っており診断価値があり有用であった。これらも同様に2016年から2017年にかけて国内外での発表を行い、評価を頂いた。
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今後の研究の推進方策 |
培養が陰性であった場合において起因菌を同定する検査はない。PCR法はプラマー、プローブによっては起因菌の同定も可能である。しかし整形外科領域の感染症において現在のところリアルタイムPCRは保険適応がなく、普及は難しい状態である。これは今後の課題であると考える。また抗菌薬投与時やインプラントに関連したバイオフィルムに関する基礎研究は少なく、さらなるPCRの可能性に向けて臨床研究だけでなく基礎研究においても推進を行いたいと考える。また関節液分析や顆粒球エラスターゼキットに関しても他の検査との比較を行うなど、さらなる有用性を検討し学会発表だけでなく論文報告を通して、整形外科的領域感染症における臨床応用の普及に向けて推進を行いたいと考える。 人工関節周囲感染の診断はさまざまな検査を複合的に考え診断される。しかし、現在の感染の診断基準では感染と診断できない症例も少なくないことが報告されてきた。今後PCR、顆粒球エラスターゼキット、関節液分析、特に関節液中CRPの検査を積極的に取り入れ、どの検査との組み合わせが最も診断価値のあるものか検討を行い、報告していきたいと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
データ管理に用いるUSBが当初よりも安価に購入できたため、物品費として10,000円以下の端数分が平成29年度使用額として生じてしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度もPCR検査試薬や顆粒球エラスターゼの検査キットおよび検査に使用するさまざまな消耗品を購入する資金にあてる。
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