研究実績の概要 |
関節リウマチ(RA)における骨関節破壊の病態メカニズムについて未だ十分に解明はされていない。RAの血清中に炎症性サイトカインのほかケモカインの一種であるStromal cell derived factor 1(SDF-1)の血清濃度が変形性関節症(OA)よりも有意に高いことを報告した(Kanbe K et al. Arthritis & Rheumatism 46:130-137, 2002.)。このSDF-1のレセプターであるCXCR4の発現をRA滑膜組織において認め、CD4およびCXCR4が関節破壊と相関することを報告した (Kanbe K et al. Modern Rheumatology 26;46-50,2016)。CXCR4はSDF-1のレセプターであり、G-coupled protein receptorに帰属する。CXCR4、CXCR5と並んでHIV co-receptorとして重要であり、エイズウイルスのT-cellへの感染に重要なレセプターである。最近peripheral blood mononuclear cellsのmemory CXCR4(+)CD4(+)T細胞がHLA-DRB1genotypeに関係していると報告されている(Nagafuchi Y, et al. Sci Rep, 2016)。我々はCXCR4が関節軟骨培養細胞に発現していることを発見し、そのligandであるSDF-1が関節滑膜培養細胞に発現していることを認めた。しかし我々は滑膜組織のCXCR4発現は疾患活動性に相関せず、大関節破壊に関係することを認めた。抗TNF-α抗体製剤を使用した29例の滑膜組織の解析では滑膜CD4(T cells)がSharp scoreに関係し、CD20(B cells)がDAS28(CRP)に関係することを認めている。生物学的製剤とMTXによる滑膜組織のPhenotype (Dennis G Jr, et al. Synovial phenotypes in rheumatoid arthritis correlate with response to biologic therapeutics. Arthritis Res Ther. 2014;16(2):R90.)についてIH scoreを用いてに疾患活動性、CRP、MMP-3、血清TNF-α、IL-6、CD20、CD68およびエコーとの関係を調べて、疾患活動性の改善度とCXCR4の関係、さらに生物学的製剤の治療効果について研究を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
臨床的研究は順調に進行しているが、in vitroの実験的研究が初代滑膜細胞の継代が進まないため今後さらに細胞培養を中心に研究を進めていく予定である。現在、抗TNF-α抗体製剤(golimumab)を用いたRA 15例、平均年齢63歳、平均罹患期間16.9年の滑膜組織と骨関節破壊について検討した。滑膜SDF-1はDAS28(CRP)と有意に相関し(p=0.0381)、滑膜CXCR4はARASHI score(p=0.0329)に有意に相関した(Kanbe K, et al. Modern Rheumatology,26;46-50,2016) 。また大関節破壊について抗TNF-α抗体製剤(golimumab)を用いたRA45例、平均年齢61歳、平均罹患期間12.6年のbaselineと52週のthe assessment of rheumatoid arthritis by scoring of large joint destruction and healing in radiographic imaging (ARASHI) scoreを比較したところ、EULAR改善度が有意に大関節破壊抑制効果に関係していることを報告した(Kanbe K, et al. Modern Rheumatology, 2017)。すなわち、いかに早く疾患活動性を抑制するかが関節破壊抑制の鍵となると考えられる。平成30年度の研究到達度は生物学的製剤非使用MTX使用RAの滑膜組織をPhenotypeに分けエコーとの関係を現在検討している。さらに抗TNF-α療法におけるSDF-1レセプター、CXCR4の発現抑制が骨関節破壊にいかに関与しているかを含め計画を進行している。
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今後の研究の推進方策 |
現在関節滑膜フェノタイプとbaselineの臨床的因子の解明が進んでいる。特にrheumatoid factor(RF)やstageとCD20の発現の関連性が強く、RF高値や関節破壊進行症例にはlymphoid typeが多いことが判明している。in vitroの実験について以下のCXCR4の細胞内シグナル伝達解明へと進めているため次年度使用額が生じている。RA(SFRA)とOA(SFOA)の滑膜細胞を初代培養し、SFRA細胞のSDF-1、CXCR4発現をmRNAおよびWestern blotting法にて解析しRAにてCXCR4の増加を調べる。TNF-α,IL-6産生についてELISAを用いて調べ、CXCR4および抗CXCR4抗体にて抑制実験を行う。SDF-1/CXCR4を介する細胞内シグナル伝達系を解明するためSDF-1添加SFRAおよびSFOA細胞におけるprotein kinase A, C, tyrosine kinase inhibitorを用いてサイトカインの抑制実験を行う。また、生物学的製剤非使用MTX使用RAの滑膜組織をPhenotypeに分けTNF-α,IL-6, MMP-3, CD4, CD8, CD20,CD68, RANKL, SDF-1、CXCR4の発現と臨床データの相関を調べる。
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