研究実績の概要 |
マウスを用いたこれまでの私共の研究において、糖尿病病態やグルココルチコイド投与による肝臓や脂肪組織での線溶系阻害因子Plasminogen Activator Inhibitor-1(PAI-1)の産生増加が、血中PAI-1濃度の増加をもたらし、それが骨や筋肉に作用して、骨粗鬆症、骨修復遅延および筋萎縮を引き起こすことを示してきた。 今年度は、筋骨格系の機能異常におけるPAI-1の役割をさらに解明するために、ストレプトゾトシン誘導性糖尿病モデルマウスを用いて、糖尿病病態においてPAI-1が骨修復遅延に関与する機序についての検討を行った。糖尿病マウスの大腿骨における骨欠損2日後の骨損傷部位では、正常マウスと比較して、マクロファージの集積の著しい減少とともに、マクロファージコロニー刺激因子, iNOS, IL-6およびCD206のmRNA量の減少がみられた。さらに、正常マウスにおいて骨損傷により引き起こされる骨髄中の造血幹細胞の減少が、糖尿病マウスでは抑制されていた。一方、PAI-1欠損マウスでは、糖尿病に伴う骨損傷部位へのマクロファージの動員障害の改善がみられた。また、糖尿病マウスにおける骨損傷部位では、マクロファージの貪食能の低下がみられたが、PAI-1欠損によりこの点についても改善が認められた。これらの研究結果より、糖尿病病態では、PAI-1が骨損傷部位へのマクロファージの集積とその貪食能を低下させることにより、骨修復の遅延を引き起こしていることが示唆された。本研究成果は、糖尿病などの病態に伴う筋骨格系の異常における多臓器連関の役割の一端を明らかにするものであり、今後、PAI-1を標的とした筋骨格系の機能異常に対する治療法の確立が期待される。
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