研究課題/領域番号 |
16K10932
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小西 裕子 名古屋大学, 医学系研究科, 寄附講座助教 (60771970)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | セボフルラン / がん細胞株 |
研究実績の概要 |
がんの外科手術において周術期に長時間用いる麻酔薬が、種類によってはがん細胞の増殖を高めるとする報告がある。そこで研究代表者は吸入麻酔薬セボフルラン暴露に着目し、ヒト培養がん細胞株を用いて増殖を解析した。 研究代表者は吸入麻酔薬に暴露された8種類のヒトがん細胞株のうち、2種類の大腸がん細胞株、1種類の肺がん細胞株、1種類の乳がん細胞株らについて増殖能が高まることを見出した。その結果これらの細胞はセボフルラン暴露後に増殖能を高め、遺伝子の発現を大きく変えることを明らかにした。特に麻酔薬暴露によりDNA修飾のひとつであるエピゲノム修飾を制御する遺伝子のいくつかでは異常低発現がみられた。このことからある種のがん細胞株にみられる麻酔薬の暴露後の増殖率増加は、暴露によりDNA修飾の一つであるメチル化異常が生じているのではないかと仮説を立てこれを明らかにするために本研究に取り組んでいる。 2018年度までに研究代表者は先に挙げた麻酔薬暴露後に増殖能を高める複数のヒトがん細胞株のうち、この増殖能が免疫不全マウスの皮下においても変わらず再現できることを、腫瘍の大きさと免疫染色によって明らかにした。またこれらの増殖能は麻酔薬暴露後に活性化する分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼが関与し、このキナーゼの阻害剤により増殖が抑えられることを明らかにした。さらに研究代表者はエピゲノム修飾によって制御を受け、大腸がんの予後の関与する遺伝子の一つに着目し、その遺伝子を改変した細胞株を樹立しその増殖能解析に取り組んでいる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度までの進捗は遺伝子改変を行った細胞株の増殖解析を実施しており、エピゲノム修飾の解析がやや遅れているが、おおむね順調に進行している。特に対照とする細胞株を複数探索したために、それらの増殖解析に予測以上に時間を必要とした。
|
今後の研究の推進方策 |
2019年度にセボフルラン吸入麻酔薬と他の複数の麻酔薬暴露との比較を行い、暴露後の増殖能、異種移植能などを解析する。また樹立した遺伝子欠損細胞株を用いて暴露前後のタンパク質発現と一連の遺伝子発現量とエピゲノム修飾異常制御に関わる遺伝子の発現量との関連についてリアルタイムPCR法を用いて解析を行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2018年度までにセボフルラン暴露後に増殖をする複数の細胞株の探索を行い、さらにセボフルラン暴露後に高発現する一部の遺伝子を欠失させた細胞株を遺伝子編集によって樹立した。この欠失細胞株の実験において興味深い結果が得られ2018年度はその研究を集中的に行ったことにより、当初予定の解析に遅れが生じたため次年度使用額が生じた。2019年度にはこの樹立した遺伝子欠損細胞株を用い、さらにセボフルランなどの麻酔薬暴露後の遺伝子発現と遺伝子修飾の網羅解析を行うため、細胞培養に必要なプラスチック製品や吸入麻酔薬の購入に充てる予定である。
|