研究課題/領域番号 |
16K10944
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研究機関 | 福島県立医科大学 |
研究代表者 |
黒澤 伸 福島県立医科大学, 医学部, 教授 (60272043)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 麻酔科学 |
研究実績の概要 |
[実験]糖質コルチコイドは自己免疫疾患、悪性腫瘍疾患、感染症治療など、広い臨床疾患分野で一般的に使用されており、糖質コルチコイドを使用している患者に全身麻酔を施行する機会は増加しているが、これらの患者に全身麻酔を施行することにより糖質コルチコイドの作用のひとつである免疫抑制が変容するかは不明である。そこでまず、In vitroにおける糖質コルチコイドによる免疫細胞抑制誘導のために至適刺激レベルの糖質コルチコイド濃度を決定する必要があるが、免疫系細胞を用いた、これまでに報告されている基礎的研究において使用される糖質コルチコイド濃度は臨床使用量から判断すると高濃度(10-7~10-6モル濃度、以下M)である。そのため、In vitroにおける実験で使用する糖質コルチコイド濃度をより臨床使用濃度に近づけるため、糖質コルチコイドの至適刺激濃度の決定を行った。免疫抑制の程度は糖質コルチコイドによるBalb/cマウス由来胸腺細胞のアポトーシス誘導により判断した。また、胸腺細胞のアポトーシス誘導はフローサイトメトリー法によるAnnexin-Vと7-AADの二重染色により測定した。糖質コルチコイド濃度はこれまでに報告されている10-9~10-5Mを使用した。[結果] 10-9~10-5Mの糖質コルチコイド添加によってマウス由来胸腺細胞は用量依存性、時間依存性にアポトーシスが誘導されることを確認した。とくに10-6~10-5Mの糖質コルチコイドは4時間培養でも90%以上がアポトーシスをおこしていた。10-7Mの糖質コルチコイドから次第にアポトーシス誘導程度は減少し、10-9Mではアポトーシス誘導は5%未満となり、10-8Mでは10%前後の胸腺細胞がアポトーシスをおこしていた。これらの結果から、実験に使用する糖質コルチコイドは、これまでの報告に比べると低濃度である10-8Mを選択した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
In vitroにおける糖質コルチコイドを使用したこれまでの研究での糖質コルチコイド使用濃度はそれぞれの研究によりさまざまであり(10-8~10-5モル濃度、以下M)、最初に本研究に至適な糖質コルチコイド濃度を決定することは研究の遂行に必須であるため、免疫細胞(本研究では胸腺細胞を使用)のアポトーシス誘導を指標にして、実際に糖質コルチコイドによって免疫細胞がアポトーシスを誘導することを確認し、かつ、その至適濃度を決定する実験を行った。まず、本実験においても胸腺細胞が糖質コルチコイドによって、4時間および8時間の培養において、時間依存性、用量依存性にアポトーシスが誘導可能なことを確認することができた。また、研究の遂行のためには、糖質コルチコイド誘導による免疫細胞抑制下での麻酔薬による影響を評価しなければならないため、至適刺激レベルの糖質コルチコイド濃度を決定する必要がある。しかし、従来多くの研究で報告されている高濃度の糖質コルチコイド濃度(10-7~10-6モル濃度、以下M)ではほとんどの胸腺細胞(90%以上)がアポトーシスを誘導されることが今年度の実験で判明し、これらの糖質コルチコイド濃度では本研究における吸入麻酔薬など、麻酔薬の影響を評価することはできないと判断された。そこでIn vitroにおける実験で使用する糖質コルチコイド濃度をより臨床使用濃度に近づけるため、糖質コルチコイドの至適刺激濃度の決定を行った。この実験により、10-8Mの糖質コルチコイドにより胸腺細胞の約10%がアポトーシスをおこし、10-9Mでは約5%の胸腺細胞がアポトーシスをおこすが、10-9M糖質コルチコイドのアポトーシス誘導量は、糖質コルチコイド非添加の胸腺細胞のアポトーシス誘導量と比較して差が小さいことから、10-8Mの糖質コルチコイドを本研究に使用する糖質コルチコイドと決定することができた。
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今後の研究の推進方策 |
1)糖質コルチコイドによって変化する胸腺細胞のミトコンドリア内膜電位の測定実験:麻酔薬によるアポトーシス誘導はミトコンドリアを介する経路であることが予想される。また、細胞にアポトーシスがミトコンドリアを介する経路によって誘導される場合はミトコンドリア内膜電位の低下が アポトーシスに先行して起こることが知られている。そこで、糖質コルチコイドが胸腺細胞のミトコンドリア内膜電位に影響を与えるかを観察する。胸腺細胞を浮遊後、デキサメサゾンを10-8M添加し、CO2インキュベーター内でそれぞれ4時間、 8時間培養後、それぞれの培養時間における、ミトコンドリア内膜電位が低下した胸腺細胞を JC-1(Lipophilic cationic probe)を利用したフローサイトメトリー法により定量し、胸腺細胞のミトコンドリア内膜電位の経時的変化を比較、検討する。2)プロポフォールによる胸腺細胞の用量依存性および時間依存性アポトーシス誘導実験:プロポフォールによる免疫細胞のアポトーシス誘導はその毒性があらわれる100μM程度の高濃度において好中球などで確認されているが、臨床使用濃度と考えられている30μM程度のプロポフォール濃度曝露によるリンパ球アポトーシスはまだ報告がない。本研究では臨床使用濃度と考えられる低濃度プロポフォールを採用する。1)と同様に胸腺細胞を培養液に浮遊後、30μMまたは60μMのプロポフォール、または対照として10%脂肪乳剤(10%イントラリピッド)を添加し、4時間、8時間培養し、プロポフォールによる用量依存性、時間依存性アポトーシス誘導をAnnexin-V および7-AAD を用いた2重染色によりフローサイトメトリー法を用いて1)と同様に確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は細胞培養実験を開始するためにクリーンベンチとCO2インキュベーター、恒温震盪槽などの備品を購入し、細胞培養に必要なRPMI1640を始めとする各種薬品とビーカー、フラスコ、ピペット、チップ等を購入したが、差額が1350円生じることになった。これは申請時に請求した薬品のうちで、購入時に、申請品と同等の効果が期待できる、より安価なものを購入したこと、および差額の1350円で購入できる備品、試薬等が、年度末にはなかったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度に行う予定の実験ではミトコンドリア内膜電位を測定するための色素であるJC-1(Lipophilic cationic probe)をはじめ、アポトーシス細胞関連試薬を複数購入予定であるため、差額による次年度使用額1350円を適切に使用する計画である。
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