新生仔期のげっ歯類や霊長類において、麻酔薬曝露が未成熟な神経細胞にアポトーシスや神経発達障害を引き起こし、成熟後の長期的な認知・学習・記憶の低下をもたらすことが報告されている。成体において、GABAA受容体作動性麻酔薬は、GABAA受容体を介した神経細胞の抑制によってその鎮静効果を発揮するが、新生仔期におけるGABAA受容体の活性化は神経細胞を興奮させ十分な鎮静効果が得られないことが知られている。本研究では、小児で一般的に使用されるGABAA受容体作動性麻酔薬であるミダゾラムを新生仔期に投与し、新生仔ラットおよび成熟後のラットに及ぼす影響について研究している。新生仔期にミダゾラムを投与したラットでは、成熟後に社会行動の異常な亢進、注意機能の低下および認知学習機能の低下が生じることが示唆された。こうした行動異常はメチルフェニデート投与によって改善することがわかり、幼弱期の麻酔薬曝露がドパミン神経回路の障害を引き起こすことが示唆された。 当該年度はチロシンヒドロキシラーゼによる抗体染色を行い、幼弱期ミダゾラム投与動物にドパミン産生量の低下があるかを検討し、変化の傾向をとらえている。また並行してチロシンヒドロキシラーゼの活性化の指標であるリン酸化を生化学的に定量している。この結果が固まれば、幼若期のミダゾラム投与はチロシンヒドロキシラーゼの機能低下を引き起こしドパミン産生量を低下させ、その結果ドパミン低下に伴う注意欠陥・多動などの行動を呈することが証明される。
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