術後認知機能障害の発生機序として、手術により生じる全身性の炎症反応がもたらす海馬の続発性炎症の関与が推測されている。この反応は加齢に伴い増強する。本研究では、若齢もしくは高齢マウスを用い、第一段階として加齢が術後認知機能障害に与える影響を経時的に明らかにし、次に、抗炎症反応を有し、神経保護作用があると言われているルテオリンを術前から予防投与することで、これらの変化が抑制可能か、術後認知機能障害の予防について確認した。 第一段階として、手術により引き起こされる脳の機能的、器質的変化を週齢別、経時的に観察した。若齢と高齢のマウスを対象とし、手術は全身麻酔下で開腹術を施行した。手術6、28日後に新奇物質探索試験を施行の後、脳を摘出し、組織学的評価を行った。海馬依存性の短期記憶は高齢マウスで術後7日目に障害、28日後には改善傾向を認めた。また若年マウスでは明らかな障害を認めなかった。 次段階として、ルテオリンの予防効果を確認するため、同様のプロトコールにて、手術2日前から術後14日目までルテオリン30mg/kg(L群)もしくはDMSO+生理食塩水(V群)同量を連日腹腔内投与した。第一段階の実験と比較し、両群で術後の体重減少が大きく、特にV群で体重減少が大きかった。また、V群では手術7日後では活動量低下を認め、有効な新奇物質探索試験が施行できなかった。また実験1では術後死亡は認めなかったが、この実験ではL群2例、V群2例の死亡を認め、また非死亡例でも、腸管の癒着を呈しているマウスが認められた。開腹手術と腹腔内注射による腸管炎症、癒着と考えられたが、体重の推移、活動量の変化からこの反応に対しルテオリンが抑制作用を有している可能性が示唆された。術後28日目の新奇物質探索試験では両群ともに明らかな障害を認めなかった。現在、海馬の組織評価、ルテオリンが海馬の炎症に与える影響について解析中である。
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