重症敗血症に起因する心機能の低下(Sepsis-Induced Cardiomyopathy: SIC)は、冠動脈の微小循環の異常による心筋虚血、全身の循環血中に存在する種々のサイトカイン、プロスタノイド、Nitric oxide (NO)などのMyocardial depressant factor (MDS)と呼ばれる心筋抑制因子の関与、血管内皮細胞の活性化と凝固系カスケードの導入の関与、自律神経系の調節不全、細胞内ミトコンドリア機能異常とアポトーシス、Toll-like receptorsの関与など、様々な機序が複雑に絡み合う形で出現すると考えられる。こうして発生した心機能低下状態を直接的に低侵襲で評価できるのは、臨床使用上においても心機能評価のゴールドスタンダードとなっている超音波イメージングであるが、敗血症に起因する心機能変化について、心臓の機能的および構造的特徴についての詳細な評価はなされていない。 今回の研究では、スペックルトラッキングによるストレイン法により、敗血症による心機能低下の特徴を新たに詳細に示すことを目標とし、その知見をもとにβ1受容体遮断による心機能改善効果を検証した。当病態における心機能の変化としては、従来のグローバルな心機能評価としての左室駆出率(LVEF)、右室面積駆出率(RVFAC)などはいずれも抑制される傾向を示したが、心臓の負荷状態に大きく依存する病態においてはデータにばらつきが多く、客観的な評価としては適切とはいえないと考えられた。本年度は昨年度より引き続き、スペックルトラッキングによるストレイン法による評価とβ1遮断薬であるランジオロールの効果を検証し、負荷状態に比較的依存しない有意な心筋抑制変化とストレイン値の回復する傾向を観察することができた。以上、今後学術専門誌を通じ公開する予定である。
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