研究課題/領域番号 |
16K10954
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
重見 研司 福井大学, 学術研究院医学系部門, 教授 (00206088)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 左心室大動脈結合状態 / 心前負荷 / 観血的動脈圧波形 / 収縮末期動脈圧 / 左心室拡張末期容量 / 一回拍出量変動 / 脈圧変動 |
研究実績の概要 |
全身麻酔や集中治療において、心拍出量(CO)の維持は、安定した循環動態を保つために重要である。COは、心前負荷と、心後負荷、心収縮力、心拍数の4因子に依存しており、前負荷を維持することが、麻酔科医や集中治療医の重要な役目である。この前負荷の指標として、中心静脈圧(CVP)や、一回拍出量変動(SVV)、脈圧変動(PPV)などがあるが、それぞれ一長一短がある。左心室拡張末期容量(Ved)は直接的に左心室の前負荷を表すが、超音波診断装置を必要とした。本研究では、このVedを非侵襲的に連続的に定量的にモニタする装置を作成し、具体的な数値目標を定めて有用性を実証する。合わせて、本法を用いて、容量血管と血液量の調節機構を解明する。 従来、左心室大動脈結合状態を示す心収縮力と心後負荷の比(Ees/Ea)の測定は、左心室内に内圧を測定する先端に圧トランスデューサを装着したカテーテルと、内容量を測定するコンダクタンスカテーテルを挿入して、下大静脈をバルンにて一時的に遮断し、左心室の内圧容量ループを複数計測する必要があった。しかし、当教室にて、非侵襲的に収縮末期動脈圧と拡張末期動脈圧、等容量収縮時間、駆出時間から近似する方法が開発された。この研究成果をもとに、Vedのモニタ装置を完成し、従来の前負荷の指標であるSVVやPPVとVedを比較する。その結果をもとに、全身麻酔中の適切な輸液管理を実現するため、Vedの具体的な数値目標を決定する。同時に、輸液速度やCVPとVedを比較して、容量血管と血液量の調節機構を解明する。この方法の特徴は、心電計や動脈血圧波形および心音計など、従来の循環動態を示すパラメータをもとにEes/EaやVedを算定し、臨床に応用する点である。また、Vedについて具体的な数値目標を設定することにより、全身麻酔や集中治療において輸液管理が容易になる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度は、左心室大動脈結合状態(Ees/Ea)を測定する試作モニタを改良し、臨床実用する予定であったが遅延が認められる。まず、パイロット実験にて収縮末期圧(Pes)より平均血圧(Pm)を使用する方が良い結果であったが、それは、動脈硬化検査(CAVI/ABIの測定)に使用する血圧脈波検査装置(バセラ、フクダ電子社製)から得られた値を用いた場合で、手術室のベッドサイドモニタ(ライフスコープ、日本光電社製)にて測定した観血的動脈圧波形を用いた場合には、補正がさらに必要であることが明らかとなった。すなわち、血圧脈波検査装置のマンシェットで測定して得られる平均血圧と、ベッドサイドモニタで観血的に測定して得られる平均血圧が異なると考えられた。そこで、今後は原法であるPesを用いることにした。また、ベッドサイドで試用すると、最短2分、多くは約10分でモニタが停止した。これは、現有のパーソナルコンピュータのメモリ不足と考えられた。サンプリング頻度を維持して、自動起動する余分な機能を止め、計算・表示プログラムを工夫して負荷を軽減したが、現在、長時間にわたって安定した運用が可能となっていない。最長2時間30分稼働したが、動脈圧のノイズにより運用が停止した。動脈血採血や体動等によるノイズでも運用が停止しない対策が必要である。 並行して、市販の心拍出量測定装置(フロートラックシステム、エドワーズライフサイエンス社製)から一回拍出量(SV)を入力し、Vedのモニタとして仕上げる必要がある。2年目には、一回拍出量変動(SVV)や脈圧変動(PPV)と、本法による左室拡張末期容量(Ved)を比較検討し、3年目には、フロートラックシステムを用いずに、独自に一回拍出量を測定してVedを求め、加えて、出血や輸血、輸液、硬膜外麻酔などのVedに与える影響を検討する予定であるが、遅延が見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
試作機器においては、すでに心電図、観血的動脈波形、心音図のアナログ・デジタル変換が可能となり、左心室大動脈結合状態(Ees/Ea)の計算も可能であった。しかし、想定外の事象として、パーソナルコンピュータのメモリ不足から、最短で2分、多くは約10分で稼働が止まることが生じた。また、採血や体動によって観血的動脈圧波形にノイズが入っても、稼働が止まった。これらの対処に約1年を必要としたが、現在最長で2時間30分の稼働であり、完全に解決したわけではない。そこで、「メモリ不足対策」および「ノイズ対策」と並行して、一回拍出量(SV)の入力と左心室拡張末期容量(Ved)の計算・表示のプログラムを作成することとする。また、SVを外部機器から入力するのではなく、独自に求める工夫も同時に並行して進める。 Vedが計算可能となれば、従来の前負荷の指標である一回拍出量変動(SVV)や脈圧変動(PPV)とトレンドを同時に表示して、臨床的な有用性を評価する。一方、Vedに対する、出血や輸液、輸血、硬膜外麻酔の影響を検討していく予定である
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品の使用量が予定より少なかった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度残額とあわせて使用する予定である。早期に測定器一式を発注する予定である。その分消耗品の使用頻度も増加する見込みである。
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