研究課題/領域番号 |
16K10965
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
牧 盾 九州大学, 大学病院, 助教 (10368665)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | トロンビン受容体 / 肺高血圧症 |
研究実績の概要 |
肺血流増加によって引き起こされる肺高血圧症の発症機序に、トロンビン受容体が関与しているという仮設の基に、肺高血圧症の病態進行を抑制する治療および肺血管抵抗の制御に寄与する治療を開発することを目的に研究を行った。 肺血流増加による肺高血圧症のモデルとして、ラットの下行大動脈ー下大静脈シャントモデルの作成を予定し、モデル作成に取り組んだ。その結果、容量負荷による右心不全の作成は容易であるが、肺高血圧を発症させる条件設定が難しく、現時点で実験に使用できる肺高血圧モデルが作成できていない。 そこで、羊を用いた肺血流増加モデル(先天性心疾患が原因の肺高血圧症モデル)を作成している研究室と協力体制を構築し、実際に肺高血圧症となっている子羊の肺動脈、肺静脈の組織サンプルを提供してもらって実験を行った。 羊の肺におけるトロンビン受容体の研究は前例がないため、トロンビン受容体およびそのmRNAの発現については情報が乏しく、受容体を検出できる抗体、rtPCRのプライマー作成を行ってきた。Western Blotでトロンビン受容体を検出できる抗体は見つかったが、組織染色での抗体の検出に難渋しており、その条件設定を検討している。また、rtPCRのプライマー作成は完了し、現在PCRの条件設定を行っている。 以上、既存モデルから得られた組織サンプルの使用に方針転換を行い、肺高血圧症とトロンビン受容体の研究を行い、十ヶの条件の設定ができつつあるのが現状である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
肺血流量増加による肺高血圧症では、肺動脈にずり応力が発生することにより、内皮細胞の障害が引き起こされ血管病変が進行する。この内皮障害から血管病変が生じる機序に、トロンビン受容体が関与しているという仮説に従って研究を行っている。 右心不全モデルとして確立した大動脈ー下大静脈シャントモデルは、右心負荷のみならず肺血流増加を引き起こすため、肺血流増加に起因する肺高血圧症モデルとしても使用できると考えて、モデル作成を試みてきた。しかし肺血管病変が進行し肺高血圧が完成する前に重篤な右心不全を生じるため、肺高血圧症モデルとしては適当でないことがわかった。 そこで、肺血流増加に起因する肺高血圧モデルとして確立している、子羊の大動脈ー肺動脈シャントモデルから得られた組織サンプルを用いた研究に方向転換を行った。 子羊の肺組織におけるトロンビン受容体のタンパクおよびmRNAの発現について検討を行ったが、羊でのトロンビン受容体の研究は前例が乏しく、使用できる抗体の選択、プライマーの設計を行い実験条件の調整が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
羊の肺高血圧症モデルの組織サンプルを用いた研究の、実験条件設定ができれば病態モデルでのトロンビン受容体の関与について検討することが可能である。これまで肺高血圧症におけるトロンビン受容体の関与が、病態モデルで証明されていないため、受容体の発現、あるいは遺伝子発現の増加が証明されれば、新たな知見となる。そこで、トロンビン受容体の発現変化、遺伝子発現、局在を知るための免疫組織染色を通じて、肺高血圧症とトロンビン受容体の関係を明らかにしていく。 また、肺高血圧症患者においてトロンビン受容体の活性化が関与するとすれば、凝固にも影響が及ぼされている可能性がある。そこで、肺高血圧症患者における凝固、線容系について検討することは、治療あるいは予防法開発の鍵になる可能性がある。そこで、周術期の肺高血圧症患者における凝固、線容系の検討を行っていく。 肺高血圧症病態モデルでの血管病変へのトロンビン受容体の関与、肺高血圧症患者での凝固、線容系の異常の有無を検討することで、トロンビン受容体の治療への可能性を検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
病態モデル作成に関して、他研究室と協力してラットモデルを作成し、その組織を提供してもらって検討を行った。その為、モデル作成にかかる予定の費用が必要なくなったため、研究費を繰り越すこととなった。
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