ラットおよびマウスを用いた肺高血圧症モデル動物は、それぞれ炎症に起因するモデルと低酸素に起因するモデルが確立されており、しばしば利用されている。しかしこれらは、原発性肺高血圧症や低酸素血症に伴う肺高血圧症のモデルとしては優れているが、先天性心疾患の病態は反映しない。そこで、肺血流を増加させて肺高血圧を生じさせる目的で、ラットおよびマウスに大動脈ー下大静脈シャントを作成し、肺高血圧症を生じることを確認した。ラットの大動脈ー下大静脈シャントは、右心不全モデルとしてはすでに確立しているが、肺高血圧モデルとしての報告はなかった。また、マウスにおいてはモデル動物として報告はあったが、技術的に困難なことが予想された。 シャント手術を行った結果、ラットにおいては過去の報告通りに、容量負荷に伴って右心系が著明に拡大し右心の収縮不全を来した。しかし、肺高血圧症の指標としてしばしば用いられる右室肥大所見はなかった。また、組織学的にも肺動脈の平滑筋層の肥厚を伴う狭窄や、plexiform regionの形成は観察されなかった。また、マウスにおいては手術後早期に死亡するため、肉眼的にも組織学的にも肺高血圧症を示唆する所見が得られなかった。そのため、ラットおよびマウスにおいて大動脈ー下大静脈シャントは肺高血圧症のモデルとして不適切であることが明らかとなった。 そこで関連研究施設から、胎生期に大動脈ー肺動脈シャントを作成し、肺血流増多に起因する肺高血圧症を発症させた仔羊と対照群の仔羊から摘出した肺動脈および肺静脈のタンパク質およびRNAサンプルの提供を受け、肺高血圧症におけるトロンビン受容体の発現変化についての実験を行った。その結果、肺高血圧症モデルでは有意にトロンビン受容体の発現が増加しており、トロンビンが肺高血圧症の病態生理に関与していることが明らかになった。
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