内皮由来一酸化窒素合成酵素(eNOS)の活性低下と一酸化窒素(NO)産生減少は、肺高血圧症の原因の一つであるが、その経路は様々な経路で修飾される。arginaseは基質のarginineをeNOSと競合するため、その活性上昇はeNOS活性を低下せしめるが、血管での役割は殆ど知られていなかった。 本研究はモノクロタリン誘発肺高血圧ラットを用い、肺血管張力測定によって肺動脈の内皮機能依存性弛緩反応の減弱と、western blot analysisにより肺組織におけるarginaseの著明な発現亢進を観察した。一方でeNOSの発現量は変化なかった。このことからNOS活性の低下は、eNOSと基質を競合するarginaseが関与している可能性が示唆された。 次に、arginase阻害剤の存在下に、肺血管の内皮機能依存性弛緩反応を観察すると、正常ラットでは弛緩反応は増強されたが、肺高血圧ラットでは変化なかった。しかし肺高血圧ラットにおいても、arginase阻害薬とarginineを同時に存在させると弛緩反応は増強した。 この結果から、正常ラットでは細胞内のarginineのavailabilityが保たれ、arginine阻害薬のみでeNOS活性が上昇したが、肺高血圧ラットではarginine活性上昇に加え内因性のarginineの利用障害も存在すると考えられた。 以上より、肺高血圧症に対しarginase阻害とarginineの併用が有用である可能性が示唆され、今後肺高血圧における内因性のarginineの利用障害の解明が、肺高血圧発症機序解明、治療に有益と思われる。
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