研究課題/領域番号 |
16K10972
|
研究機関 | 岡山県立大学 |
研究代表者 |
高橋 徹 岡山県立大学, 保健福祉学部, 教授 (40252952)
|
研究分担者 |
森松 博史 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 教授 (30379797)
清水 裕子 岡山大学, 医学部, 客員研究員 (80423284)
荻野 哲也 岡山県立大学, 保健福祉学部, 教授 (90252949)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 出血性ショック / 蘇生後急性肺傷害 / 炎症 / 一酸化炭素 / CO-releasing molecule / 炎症性サイトカイン / 抗炎症作用 / COヘモグロビン |
研究実績の概要 |
平成28年度の研究ではラット出血性ショック誘発急性肺傷害モデルへの蘇生時のCO-releasing molecule-3 (CORM-3)の投与が、副作用を来たすことなく肺の炎症反応を抑制することにより肺傷害を改善するかについて検討した。雄性SDラットを大腿動脈よりの脱血により、30 mmHg / 60分間の出血性ショック状態に陥らせ、その後、血液を戻すことによりラット出血性ショック蘇生(Hemorrhagic shock and resuscitation : HSR)モデルを作成した。蘇生時にCORM-3:4 mg/kgを尾静脈より投与し、蘇生後肺傷害と炎症に及ぼす影響を検討した。ラットはSham ope群, CORM-3投与HSR群,inactive CORM(iCORM)-3投与HSR群, vehicle投与HSR群の4群に分けた。vehicle投与HSR群とiCORM-3投与HSR群では蘇生後12時間にうっ血、浮腫、細胞浸潤をともなう著しい肺傷害が組織学的に認められた。また、気管支肺胞洗浄液のタンパク濃度の上昇と肺wet/dry ratioの上昇により肺血管透過性の亢進と浮腫の増大が確認された。さらに、蘇生後3時間後には、炎症性性サイトカインである肺tumor necrosis-alpha, inducible nitric oxide synthase, interleukin-1beta のmRNAレベルが有意に増加した。一方、CORM-3投与HSR群では肺傷害が著しく改善し、肺血管透過性の亢進・肺浮腫の有意な抑制と肺炎症性サイトカインmRNAレベルの有意な低下が認められた。尚、CORM-3投与は血液中のCOヘモグロビンを有害レベルまで上昇させず、循環系の副作用も認めらなかった。以上よりCORM-3の蘇生時投与は出血性ショック蘇生誘発急性肺傷害を抗炎症作用を介して改善することが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者らは、これまでラット出血性ショック蘇生モデルを確立し、蘇生後の炎症反応に起因する急性肺傷害に対して、低濃度の一酸化炭素( 250 ppm )吸入が炎症反応を抑制することにより、肺傷害を軽減することを明らかにしてきた。しかし、CO吸入ではCOヘモグロビンレベルがヒトにおける許容範囲を超えてしまう。そこで、CO-releasing moleculeの静脈内投与がCOヘモグロビンレベルを有害レベルまで上昇させることなく、出血性ショック蘇生後急性肺傷害を改善するかについて検討した。その結果、「研究実績の概要」にも記したように、4mg/kgのCO-releasing moleculeの出血性ショック蘇生時の投与は、有害作用を起こすことなく、肺傷害・炎症ともに抑制した。このように、平成28年度は本研究計画通りに進んでいることから、おおむね順調に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
申請者らは、炎症による酸化ストレスがミトコンドリアを傷害し、傷害されたミトコンドリアから遊離した物質がアポトーシス経路を活性化することにより、急性肺傷害が発生すること、一方、蘇生時のCORM-3投与が傷害されたミトコンドリアの除去(マイトファジー)を介する抗アポトーシス作用により急性肺傷害の改善に寄与するのではないかとの仮説を立てている。したがって、今後は、出血性ショック蘇生後急性肺傷害におけるマイトファジーを介するアポトーシスの関与を検討し、さらにはCORM-3がマイトファジーの促進を介して傷害ミトコンドリアを除去することにより、アポトーシスを抑制し急性肺傷害が改善することを検討していきたい。
|