研究課題/領域番号 |
16K10981
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
住谷 昌彦 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (80420420)
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研究分担者 |
四津 有人 東京大学, 医学部附属病院, 特任助教 (30647368)
大住 倫弘 畿央大学, 健康科学部, 特任助教 (70742485)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 上肢運動 / 運動恐怖 |
研究実績の概要 |
【目的】運動器慢性疼痛患者では,運動恐怖により運動発現過程で知覚運動協応の破綻が生じていることが報告されているが、その定量的評価は確立されていない.本研究では,到達・把握運動の3次元動作計測から取得される運動学的データを用いて運動恐怖による知覚運動協応の変容を定量的に分析することを目的とする。 【方法】上肢の運動恐怖を伴う慢性疼痛患者を対象とし、健肢と患肢それぞれについて3次元動作解析を行った。3 次元位置磁気計測システムを用いて、到達・把握運動の運動軌跡を計測した。到達運動における運動速度の時系列変化を算出し,運動開始から運動速度がピークに達するまでの区間(加速期),運動速度のピークから運動終了までの区間(減速期)に分割した。加速期・減速期におけるCurvature Index(CI:実際の運動軌跡長から最短距離を減算した値),Direction Error(DE:対象物の方向に対する逸脱角度)を算出した. 【結果】加速期CIは健肢と患肢に差は無かったが,減速期でのCIでは患肢が明らかに大きく失調様であった。健肢は動き始めに外側に凸の円弧の軌跡を滑らかに描くのに対して患肢は目標に対して直線を描くパターンを示していた.加速期のDEは患肢が健肢よりも小さく、疼痛緩和後に大きくなった。 【考察】減速期においてのみ患肢のCIが有意に大きかったことから,患肢の失調様の運動様式は視覚‐体性感覚の統合不全によると考えられる.また,運動プログラムが反映される加速期において,運動の円滑性が患肢では障害されており運動量の最小化を優先する運動をプログラムしていた。疼痛緩和により運動の最小化も改善することから、運動量を最小化する運動戦略は痛みに対する恐怖・不安が影響していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
運動恐怖を伴う慢性疼痛患者の上肢運動を3次元動作解析によって定量化し、これまで我々が慢性疼痛の発症機序として明らかにしてきた知覚-運動協応に着目した運動解析を行った。運動軌跡を、加速期と減速期に分割して解析することにより視覚-体性感覚のフィードバック制御が行われる減速期の失調様の運動異常を明らかに出来た。さらに、加速期においては不自然な運動の最小化が確認され、これは運動エネルギーの視点からは通常運動に比して筋骨格系への負荷が高くなり非効率的であるにも関わらずこのような運動パターンを選択していることは運動恐怖を示していると考えられる。加速期運動は運動表象に基づく運動プログラムを反映しているため、運動恐怖による運動表象の変化を定量的に評価できたと考えている。運動恐怖に修飾された運動実行の定量的解析の手法を開発することが出来ており、これは本研究の根幹をなす基盤的な発見である。このような運動遂行時の眼球(瞳孔)計測も行い、痛み刺激時の瞳孔径の変化のreal-time計測にも予備的に成功している。したがって、研究進捗状況は概ね順調であると評価し、今後の研究の発展が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
実験的侵害刺激に対する瞳孔径の散大は交感神経緊張によるものであり、我々が用いている眼球計測機器が十分な感度を持っていることを予備的に確認できた。上肢到達・把握運動課題時の眼球計測時の頭位の移動も追従できることを予備的に確認できている。健常者を対象として、実験的侵害刺激を伴う上肢到達・把握運動課題時に、侵害刺激の大小条件を設定し、侵害刺激前(つまり侵害刺激が加わっていない)の瞳孔径の変化(特に散大)を計測することによって運動に伴う恐怖心による交感神経緊張を定量評価する予定である。 また、疼痛患者を対象とした上肢到達・把握運動課題時の運動最小化を破綻させる条件設定により運動恐怖による上肢到達・把握運動の変容を定量評価、解析し、これまで慢性疼痛の発症機序として提案されている知覚-運動協応の認知モデルに運動恐怖という情動要素を追加することを目標とする。 いずれの研究課題も豊富な臨床患者の診療環境と研究協力体制が整っているため実現可能であると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の実験の結果生じた未使用額である。
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次年度使用額の使用計画 |
来期の研究実験に使用する。
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