本研究はがん治療における化学療法を受けている患者でみられる化学療法惹起性末梢神経障害でみられる対称性遠位末梢神経障害のマウスにおけるモデルを作成し、行動学的評価法、形態学的評価法などを確立したうえで、予防薬・治療薬を開発することを目指した。化学療法薬として広くがん患者に投与され、末梢神経障害を高頻度で惹起するオキサリプラチンおよびパクリタキセルを検討した。マウスモデルにはオキサリプラチンもしくはパクリタキセルを繰り返し投与し、対称性遠位末梢神経障害患者でみられる非侵害受容性の機械的刺激に対する疼痛行動の出現で評価した。また、形態学的には後肢足底のintraepidermal nerve fiberの消失で評価した。オキサリプラチンとパクリタキセルはいずれもマウスへの繰り返し投与により末梢神経障害を惹起した。これらのモデルにおける末梢神経障害に対し、ミトコ ンドリア保護作用を有するペプチドであるSS-20の予防効果を検討した。オキサリプラチンもしくはパクリタキセルの投与期間中、SS-20を浸透圧ポンプ により持続皮下投与することにより、神経障害性疼痛による疼痛行動や後肢足底のintraepidermal nerve fiberの消失が抑制された。SS-20に用量依存性が見られた。SS-20による明らかな副作用はみられなかった。以上の結果より、SS-20はオキサリプラチンおよびパクリタキセル惹起性末梢神経障害を予防できることが示された。またこのことは、オキサリプラチンおよびパクリタキセル惹起性末梢神経障害はミトコンドリア障害が関与していることを示唆した。
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