末梢の一次感覚神経の障害は難治性で慢性に経過する神経障害性疼痛を生じる。これまでに活発に新規鎮痛薬の開発が行われてきたが、依然として治療に難渋する病態である。これまでに実験動物を用いた研究により効果が見られた薬物がヒトにおいて有効性を示さないことが数多く見られ、よりヒトの病態を反映する研究戦略が求められている。この点において、ヒト小児において神経障害性疼痛の発症率が低いことが疫学的に示されている。実験動物においても神経障害性疼痛は幼弱期には発症しないことから、一次感覚神経の傷害による遺伝子発現変化の発達時期による違いをもとにヒトで有効な治療戦略を検討してきた。 幼若ラットと成熟ラットに対して末梢神経障害を施し、RNAシーケンスにより遺伝子発現変化を網羅的に解析した。発達時期の違いにより発現変化のパターンが異なる遺伝子群を抽出し、Ingenuity Pathway Analysisを用いて遺伝子群が関わる機能や遺伝子ネットワークおよび遺伝子群の違いに寄与する可能性のある上流調節因子などを求めた。この結果、免疫機能や炎症に関わる遺伝子が多く含まれることが明らかになった。このうち、これまでに疼痛との関連が知られておらず、治療標的として可能性のある複数の標的遺伝子を抽出し、発現変化や機能を検討した。また、神経障害性疼痛に関与することが知られている炎症性サイトカイン等の発現変化が幼若ラットと成熟ラットで異なることが後根神経節と脊髄後角で明らかになった。
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