これまでに発達期の末梢神経髄鞘化の過程においてHIF1αの発現がシュワン細胞の分化誘導に寄与し、発達期の髄鞘化に対して促進因子として働く可能性を示してきた。今年度は、末梢神経傷害や末梢性脱髄疾患時の神経再生における再髄鞘化におけるHIF1αの役割について検討した。坐骨神経挫滅モデルマウスは挫滅後数日から神経の再生が開始すること確認されており、末梢神経再生モデルとして有用である。神経挫滅後、坐骨神経を回収し、HIF1α蛋白の発現を検討した。シュワン細胞が再分化する時期(挫滅後4日)からHIF1α蛋白が安定して発現しており、S100β陽性シュワン細胞に局在することが分かった。したがって、発達期におけるシュワン細胞の分化と同様に神経の再髄鞘化におけるシュワン細胞の再分化時においてもHIF1αが分化誘導に関与していると考えられる。そこで、神経挫滅モデルにHIF1α安定化剤を継続的に投与し、坐骨神経の再髄鞘化への影響について評価した。薬剤投与により髄鞘化している軸索の数が増加していた。さらに、末梢性脱髄疾患であるCharcot-Marie-Tooth 病(Type1A)のモデルマウス(Pmp22Tr-Ncnp)を用いて坐骨神経の再髄鞘化と握力を指標に神経が支配する筋力への影響を評価した。HIF1α安定化剤を投与することで、髄鞘化する軸索が増加し、握力の改善傾向が認められた。また、病態時の髄鞘化に対するHIF1α安定化剤の効果を検討するため、CMTモデルマウスの胎仔からDRG explant cultureを作製し、ミエリン染色により評価した。髄鞘化誘導時にHIF1α安定化剤を一過性に処置することで、ミエリンセグメントの増加が観察された。以上のことから、病態時の再髄鞘化においてもシュワン細胞にHIF1αが安定して発現することで、シュワン細胞の再分化を誘導する可能性が示唆される。
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