研究課題
前年度にも報告した前治療無し(NNA)、内分泌療法(NHT)、化学内分泌療法(CHT)の前治療の異なる3群の前立腺全摘組織210コア、70例のtissue microarrayを活用し、ステロイド受容体を含めた15種類近い組織バイオマーカーの発現の網羅的解析を行った。昨年の報告の通り、間質のPR発現がCHT群で有意に上昇した。CHT群の生化学的再発とステロイド受容体発現の関連を解析したところ、細胞のPR発現低値は有意に生化学的再発と関連した。また核内AR受容体発現高値症例は生化学的再発が有意に高かった。多変量解析においても核内AR高発現と新規候補タンパク核内YAP高値の両方陽性はCHT群の生化学的再発の独立した危険因子になることを見出し、アウトカムを予測する組織バイオマーカーとなる可能性を見出した。また最近は前立腺癌においても術前治療と腫瘍周囲免疫担当細胞浸潤の関連が報告されているためCD3,CD4,CD8,マクロファージの浸潤を同TMAを用いて検討したが、CHT群で腫瘍間質にCD8が有意に増加する傾向があるものの、治療後の生化学的再発に関連する浸潤免疫細胞はなかった。以上より現時点では核内AR、癌間質PR、核内YAPが癌増悪に強く関連するマーカーと考え、機能的意義に関して前立腺癌細胞株、動物モデルを用いて検討中である。当教室で有する前立腺間質細胞PrSCにPRをtransfectionし、共培養による前立腺癌細胞の機能解析を試みているが、現在は目的遺伝子を発現していない前立腺間質細胞と癌細胞の共培養によるコントロール実験を行っているところである。臨床検体でバイオマーカー候補を同定できたこと、また細胞実験において予備実験を開始しており、計画はおおむね順調に進んでいると考えている。
2: おおむね順調に進展している
仮説として注目したステロイド受容体の中で、核内アンドロゲン受容体と間質プロゲステロン受容体が重要であることを臨床検体で再度確認できた。アンドロゲン受容体に関しては核内YAP組み合わせたバイオマーカーであるものの前立腺癌全摘後の再発に関連する他因子を含めて多変量解析で検討後も独立した危険因子であることが確認できた。このことは仮説で注目していたステロイド受容体発現が強力な予後マーカーである可能性を証明したものであり、目標の一部が達成されたと考えている。また間質プロゲステロン受容体発現と前立腺癌増悪の関連も興味深く、他施設からも同様な知見が増え始めている。現在細胞株モデルで臨床検体での知見を裏付ける機能解析を進行中であり、これにより前立腺癌進展におけるステロイド受容体の新たな関連性を証明できる可能性があると考えている。
上記所見をもとに現在前立腺間質細胞株であるPrSCを培養し、ステロイド受容体を含めた遺伝子・タンパク発現を確認しているところである。同時にPrSCと前立腺癌細胞株(PC-3, 22Rv-1, DU145)とのを直接的、間接的共培養系の確立を目指しており、予備実験が終了したらPRを強制高発現させたPrSCとコントロールPrSCによる前立腺癌機能への影響を検討する予定である。PC-3にはlucが導入されているため、in vitroでの検討が終了したらin vivo imaging systemを用いた検証も企画したい。また、臨床検体に関してはTMAでの所見を症例数増加で確認するため、その後当科で前向き試験により収集された追加約20例の全摘組織標本を作製、またTMA作成時に集めたら症例も含めた術前化学内分泌療法後60例の術前治療前生検組織等の免疫染色も施行しており、同一症例でのステロイド受容体発現変化やこれまでえられた知見のvalidationを再度行っていこうと考えている。
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