研究課題
去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)に対する化学療法の第一選択はドセタキセルであり、奏功はするものの、やがて耐性となることが問題となる。近年、ドセタキセル後の化学療法薬としてカバジタキセルの有効性が示され、2014年には本邦でも認可された。しかし、カバジタキセルを使用しても、同様にいずれは耐性となる。我々は最近ドセタキセル抵抗性の前立腺癌細胞株を用いてカバジタキセル耐性株を2種類樹立した。カバジタキセル知性となった細胞株PC-3-TxR/CxRとDU145-TxR/CxRともin vivoにおいてもカバジタキセルに対して耐性を示した。PC-3-TxR/CxRとDU145-TxR/CxRはそれぞれ親株に対して11.8倍、4.4倍カバジタキセルに対して耐性を示した。本年度はMicroarrayの手法を用いて関与する遺伝子の同定を試みた。カバジタキセル耐性細胞株において、両細胞株においても、1,000を超える遺伝子の発現変化が認められた。特に、薬剤耐性遺伝子と言われる遺伝子群の発現をカバジタキセル耐性株と感受性株で比較検討した。その中で、カバジタキセル耐性細胞株において、MDR1遺伝子からコーダされるP糖タンパクの過剰発現が確認された。このため、このMDR1過剰発現がカバジタキセル耐性の原因かどうかを明らかにするため、MDR1の発現をノックダウンし、感受性が回復するかどうかを観察したところ、カバジタキセルの感受性が部分的に回復した。以上のことより、カバジタキセルに対する耐性化にはP糖タンパク質の過剰発現が関与していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
ドセタキセル耐性前立腺癌細胞株とカバジタキセル耐性前立腺癌細胞株を用いてcDNA microarrayを行い、発現の大きく異なる遺伝子を見つけ、耐性化の原因となる遺伝子を同定しようと試みた。その結果、カバジタキセル耐性株PC-3-TxR/CxRで発現の亢進する遺伝子が、4,683、DU145-TxR/CxRで1,537確認できた。両耐性細胞株で共通して発現の亢進した遺伝子が、耐性化の原因遺伝子の可能性があるという仮説のもとにそれらの遺伝子の発現をRT-PCRで確かめ、さらにそれらの発現をsiRNAを用いてノックダウンして、カバジタキセルに対する感受性が回復するかどうかを確認したが、どの遺伝子でもうまくいかなかった。次に、薬剤耐性に関与するといわれるMDR1やMRPsの発現に注目し、それらの発現変化を観察したところ、PC-3-TxR/CxRではMDR1の発現がPC-3-TxRに比べてさらに亢進していた。またDU145-TxRではすでにMDR1の発現が亢進していたが、DU145-TxR/CxRではMDR1の発現はそれほど亢進していなかった。MDR1の発現をsiRNAを用いてPC-3-TxR/CxとDU145-TxR/CxRでノックダウンしたところ、両細胞においてカバジタキセルに対する感受性が部分的に回復した。以上の結果より、カバジタキセル耐性の獲得にはMDR1遺伝子の発現が強く関与していることが示唆された。
現在、PC-3-TxR/CxRとPC-3-TxR、DU145-TxR/CxRとDU145-TxRでのcDNA micraarrayによる遺伝子発現プロファイルを比較しており、特にケモカインに焦点を当てて、耐性株で発現の亢進したケモカインの発現をsiRNAを用いて制御したり、損御受容体の機能を阻害薬を用いて制御して、カバジタキセル感受性がどのように変化するのかを観察中である。さらに、カバジタキセルやドセタキセル耐を克服するための低分子化合ぶつの探索を行う予定にしている。さらにcDNA microarrayの結果得られたデータをもとに、耐性化に関与する遺伝子の発現を実際に臨床で確認するために、化学療法前後の患者血液サンプルからViewRNATM CTC-CC Kit (Affymetrix)を用いてCTCを単離し、そこからRNAを抽出後、目的遺伝子の発現の状況を調査する。別の手段として、カバジタキセル前後の患者の血液に流れているRNAをPAXgene RNA tubeを用いて直接抽出し、その遺伝子の発現が患者で本当に耐性化に関与するかを明らかにしていく。
カバジタキセル耐性の獲得について、まだ明確な実験成果に至っておらず、それに伴う試薬の購入費の予算に残額が生じた。引き続きin vivoの実験において抗癌耐性株で耐性化が生じるか観察し、それにともなうキット類に残額を充てる予定である。
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Oncotarget
巻: 9 ページ: 16185-16196
10.18632/oncotarget.24609