ATBF1は乳癌の場合にはmRNA発現量だけでも予後診断に活用できることが我々の研究成果で解明した。しかし、膀胱癌などの長期予後を正確に予測する目的に活用するためにはATBF1のmRNA発現量だけの情報では診断力がなく、タンパク質の核内集積度までを正確に検定する必要がある。通常の抗ATBF1抗体作成では、ATBF1の総量は比較的容易に検出できるが、核への集積を分析するためには、肉眼的顕微鏡検査が必須となる。肉眼的顕微鏡検査は臨床病理専門医の時間と労力がかかる。ATBF1は核へ移動するときにATMの標的配列が特異的にリン酸化を受けることが解明できた。複数ある候補配列のうち、どのアミノ酸のリン酸化が生理的に機能しているかを決定した。その特異的アミノ酸を標的とするモノクローナル抗体を作成することにより、核内ATBF1であることを自動的に認識できるようになる。核内ATBF1のみを検出できる抗体の開発ができれば、肉眼的顕微鏡検査ではなくフローサイトメトリによる細胞診断による自動計測による診断方法へ応用できる計画は未完成の段階である。
コンピュータ分析によるATMの標的リン酸化コンセンサス配列は30カ所もATBF1分子上に見出され、どのアミノ酸が真の標的なのかを決定する必要がある。現時点では、その中の一つがp53がATMによってリン酸化を受ける配列と酷似していることから、高い確率で機能配列である。しかし、すべてのコンセンサス配列部分に核内移行を促進する機能があるのか否かは、コンピュータ分析では決定できない。培養細胞系を使った生体観察によって機能を確認する必要性がある。培養細胞は癌細胞由来で無限増殖をする特性を獲得している。癌細胞と正常細胞の相違点を判定するATBF1分子の挙動を観察することまで成功した。
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