TP53 signatureは、がん抑制遺伝子TP53の機能変異を伴う構造変異の有無を予測することができる遺伝子発現プロファイルとして開発され、早期乳がんにおけるTP53 signatureは、OncotypeDxやMammaPrintよりも鋭敏に予後予測ができることを明らかにした。一方、前立腺癌はホルモン依存性などの生物学的特性の類似性を有することから、TP53 signatureが乳癌だけでなく早期前立腺癌の予後を予測できると仮定し、①コホート・生体試料支援プラットフォームの支援を受けて入手した前立腺がんの臨床検体について、ナノストリング技術を用いてTP53 signature scoreを取り、野生型および変異型の各群の予後診断能についての解析を行うとともに、②臨床情報を含む公開されたマイクロアレイデータセットを用いてin silicoでの予後予測解析を行った。その結果、①の実臨床検体コホートでも、②の公共データベースコホートでも、TP53 signature変異に分類された群では有意に予後が不良であることを証明することに成功した。また、TP53 signature変異群の分子的背景を明らかにするために、分子オミックスデータ「The Cancer Genome Atlas data」をデータを用いた解析により、同群では、①アンドロゲン受容体シグナルへの依存性が低い、②MDM2およびMDM4コピー数増加、③二本鎖切断修復異常、④遺伝子変異量(TMB: Tumor Mutation Burden)が高いなどの特徴を有することを明らかにした。これら知見により、TP53 signatureは早期前立腺がんの予後改善のための個別化医療への一助となる可能性を示すことができ、今後前向き研究への発展に向けて計画を立てている。
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