研究課題
「研究の目的」骨盤内領域に極めて高濃度の薬物を投与する“血流塞栓膀胱動脈選択的動脈内投与法(baloon occluded arterial infusion: BOAI法)”と 癌細胞を選択的に死滅させる標的粒子線治療“硼素中性子捕捉療法(BNCT)”を併用することによって、①膀胱全摘の適応である局所浸潤性膀胱癌に対して副作用を殆ど認めない新規膀胱温存療法を確立すること、② 転移性膀胱癌症例に対してこれまでの抗癌剤治療に比較して副作用が極めて少ない新規治療を開発すること、を目的としている。「研究内容」BNCT法は、癌細胞選択的に取り込まれる硼素化合物を予め投与しておき、熱中性子線を照射することにより、硼素を殆ど取り込まない正常細胞は障害されないが、硼素を多く取り込んだ癌細胞では細胞内部で硼素と熱中性子の核反応が生じ、核反応により発生した高エネルギーが癌細胞を選択的に破壊する、「正常組織温存+癌細胞選択的破壊治療」である。本治療法の大きな利点は、核反応により発生する粒子は飛距離10ミクロン以下のため、周囲細胞に影響を及ぼさず、硼素を取り込んだ癌細胞のみを選択的に破壊できることであり、また、本治療の成否は、いかに十分量の硼素化合物を癌細胞に選択的に集積させるかにかかっている。そこで我々は、1) 膀胱周囲組織に極めて高濃度の硼素化合物を投与可能とする“BOAI法”(血流塞栓用バルーン付カテーテルを用いて膀胱動脈選択的に硼素化合物を動脈内投与する)を用いて、2)膀胱癌細胞、特に核内に選択的に集積、移行するべく特殊加工した“膀胱癌細胞親和性硼素化合物”を作成、投与することによって、膀胱癌細胞により選択的に高濃度の硼素化合物を取り込ませ、癌細胞を選択的に破壊するBOAI-BNCT法を考案した。3)中性子源として “加速器BNCT”が本学に設置され実践的な臨床治療開始する。
2: おおむね順調に進展している
A 膀胱癌細胞に親和性を持つ“膀胱癌細胞親和性硼素化合物”の開発以下①②の内容で膀胱癌細胞親和性硼素化合物の開発を進めている。①硼素化合物BSHへの核移行シグナルの付加(BSH-NLSの作成): BSHのS-H基を開きリンカーを介してNLSを結合する ② BSH-NLSのTF-PEG-Lipへの包埋: 径50 micrometer のliposome を作成し、その内部にBSH-NLSおよびH2Aを含有させ、表面をPEGおよびtransferrin でcoating したliposome(TF-PEG-liposome-BSH-NLS)を作成する。H2Aはinfluenza virus 由来のhemaglutinin-2 subunitペプチドであり、エンドゾームよりの放出を促進し、リポソーム内にH2Aを同時に包埋することにより細胞内導入効率を100倍以上高める事が期待される。B in vitro: BNCT治療における抗腫瘍効果の判定:尿路上皮癌を組織型とする膀胱癌細胞株 T24、および、腺癌を組織型とする膀胱癌細胞株UMUC3(腺癌)、そして非癌細胞株CRL-2096にそれぞれ膀胱癌細胞親和性硼素化合物を加えて培養した後、中性子照射を行い colony forming assay、MTT-assay などを用いて癌細胞選択的な細胞障害効果を確認している。照射実験は日本原子力研究開発機構研究4号炉(JRR4)を利用している。
以下、A-Cを予定している。A「マウス膀胱癌モデルを用いたin vivo におけるBOAI-BNCT療法の膀胱癌選択的治療効果の確認」 マウス膀胱癌モデルを用いて通常静脈投与に比較して、BOAI法による膀胱癌細胞への硼素化合物の取りこみ増加、および、BNCT治療による殺細胞効果の向上を確認する。2) マウス膀胱癌BOAIモデルを用いて組織型の異なる膀胱癌(尿路上皮癌、および、腺癌)に対するBNCT治療効果を検討し、これまでの大阪医大式膀胱温存療法で治療効果が得られなかった腺癌に対するBOAI-BNCTの治療効果を確認する。B 「マウスビジュアル膀胱癌転移モデルを用いた、BNCT療法の治療効果の検討」 1) 膀胱癌細胞株T24のゲノム内にLuciferase発現遺伝子を導入したFSR-T24を作成し、これをマウスに静脈内投与することによって“転移の部位、状態が目で見てわかる、マウスビジュアル膀胱癌転移モデル”を確立する。2) このモデルに硼素化合物を静注投与し、各転移巣における硼素化合物の取り込み状況をKUR-BSH定量システムを用いて定量する、(転移巣の大きさを目で見て測定可能であり、治療効果と副作用を同時に判定しつつ生存期間の延長も検討できる。C 「ビーグル犬膀胱癌モデルにおける、BOAI-BNCT膀胱温存療法の有効性と安全性の検討」 1)ビーグル犬膀胱癌モデル:生後6か月のビーグル犬にMethyl-N-nitrosourea(MNU)を膀胱内注入後、BBNを週6回連日経口投与することによって浸潤性膀胱癌モデルを作成する。2) 血流塞栓用バルーン付カテーテルを用いて膀胱、および、膀胱周囲組織に極めて高濃度の硼素化合物を投与し、膀胱癌組織、および、正常粘膜、それぞれの組織におけるBSH濃度をICP-AESを用いて測定する(癌細胞に選択的に取り込まれることを確認)。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 4件、 招待講演 4件)
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