研究課題/領域番号 |
16K11036
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研究機関 | 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛 |
研究代表者 |
伊藤 敬一 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛, 泌尿器科学, 准教授 (90260091)
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研究分担者 |
松尾 洋孝 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛, 分子生体制御学, 講師 (00528292)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 腎細胞癌 / 早期診断 / 病期診断 / バイオマーカー / 包括的高感度転写産物プロファイリング / 次世代シークエンサー |
研究実績の概要 |
腎細胞癌には早期発見に活用できる特異的な腫瘍マーカーは存在しない。我々は包括的高感度転写産物プロファイリング(HiCEP)法という新規の方法を用い腎細胞癌の発見や病期診断に応用しうるバイオマーカーの探索を行っている。HiCEP 法は、256 対のプライマーを用いてcDNA を網羅的に増幅し、mRNA の発現量を高い感度と再現性で、低発現mRNA を含め測定可能にした技術である。現在までに腎癌組織および患者血液を86例で収集している。検体の収集は順調である。当初はRNAの抽出のクオリティが低かったが、現在は抽出の手法を改善しRNAの精度を高めることができている。腎癌6症例の癌部・非癌部から抽出したRNAをHiCEP法による発現解析を行った。悪性度によって2群に分けた比較において、3つの有望なピークが見つかった。高悪性度群で発現の増加率が上がる分子は癌の進展に関与する可能性があり期待できる。癌部・非癌部を比較して癌部において発現が5倍以上増加しているピークを25個認めた。早期発見につながるバイオマーカーは低悪性度、高悪性度の症例のいずれにも共通して発現している必要があり、これらの25分子に関しては早期診断のバイオマーカーとなる候補分子である。さらに、次世代シークエンサーによりHiCEP法におけるピークの配列決定のための解析を行い、ほぼすべてのHiCEPフラグメントの配列を解析することに成功した。現在その解析結果を評価中である。 今後は腫瘍マーカー候補分子について、リアルタイムPCRによりすべての収集検体における再現解析を実施する。また、機能解析を通じてマーカー候補分子の機能と局在を明らかにすることを目指す。さらに、白血球上に発現する分子の変化に関しても今後はHiCEPを行い、同様の検討を行っていく。すでにcDNAは確保できており、その後の工程は組織における検討と同様で問題はない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)現在までに腎癌組織および患者血液(全血および分画白血球)を86例で収集している。今後も検体収集を継続していく。RNAの抽出およびcDNAへの転写に関して、当初は、組織からのRNA抽出に難渋した。このため、抽出されたRNAの状態が悪く、解析に使用することができなかった。その後、手術検体採取後に即時にRNAlaterによって組織のRNAを安定化させるように修正し、血液検体については、採血後すぐにPAXgeneに分注してRNAを保存している。このような即時の検体処理と、RNA抽出についてはRNA抽出に習熟した共同研究先に指導をいただくことで、RNAの精度を高めることができている。 2)HiCEP法による網羅的発現解析を行った。腎癌検体は6症例の癌部・非癌部から抽出したRNAをHiCEP法による発現解析を行った(合計12検体)。腎癌検体については悪性度によって2群に分けた比較において、3つのピークが見つかった。また6症例すべてにおいて、癌部・非癌部を比較して癌部において発現が5倍以上増加しているピークを25個認めた。 3)次世代シークエンサーによるHiCEPフラグメントの解析を行った。次世代シークエンサーによりHiCEP法におけるピークの配列決定のための解析を行い、ほぼすべてのHiCEPフラグメントの配列を解析することに成功した。現在その解析結果を評価中である。 4)結果解析による腫瘍マーカー候補分子の探索を行った。次世代シークエンサーによる解析結果とHiCEPにおけるピークとをリンクさせることにより、ピークの配列決定を行うことに成功した。例えば腎癌の解析において、癌部で5倍以上ピークが増大する遺伝子を25個同定することができた。これらの候補分子に関しては、SYBR Greenを用いたリアルタイムPCRよって、すべての収集検体の癌部・非癌部での発現を分析する。
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今後の研究の推進方策 |
1)現在までのところ本研究は順調に進んでいる。癌組織における検討ではHiCEP法を行った6症例すべてにおいて発現が5倍以上亢進している25のピークをすでに決定しており、分子の同定も進んでいる。この6症例以外の腎癌症例の癌部、非癌部のペアのcDNAもすでに確保できており、これらの検体で候補分子発現の感度、特異度および進行期別のマーカー陽性率の検討を行っていく(リアルタイムPCRで検討)。各患者情報もすでに収集している。この25分子は早期発見のバイオマーカーになりうる可能性を秘めている。 2)低悪性度の腎癌と比較し、高悪性度の腎癌で発現量が上昇する3つのピークに関しても同様の検討を行っていく。この3分子は高悪性度症例において発現量が上がる分子であり、癌の進展や転移に関連する分子が同定できる可能性がある。 3)マーカー候補分子の機能と局在を明らかにすることを目指す。その機能解析の手法として、分子機能を解明するための組織学的解析、細胞機能を解明するための細胞生物学的解析を必要に応じて実施する。その結果を、血液検査などの患者臨床データや症状と対応させ、その病態を明らかにする。また、可能であれば患者について臨床経過を追跡し、マーカー候補分子や遺伝子異常の種類と予後因子等の関連についても検討する。これらの解析から、腎細胞癌細胞の病態生理学的な知見を得られることが予想され、より効率的な治療法や予防法につながる可能性が期待できる。 4)周術期に採取した全血から抽出したRNAについてもHiCEP法を行う。実際にHiCEP法を導入している共同研究先と連携して収集した血液サンプルについてもHiCEP法による解析を行う。血液サンプルを用いたHiCEP法による解析では、術前・術後の発現量の差を比較することで、腫瘍マーカー候補分子の発見につながることが予想される。
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次年度使用額が生じた理由 |
次世代シークエンサーに私用する消耗品購入やHiCEPの施行には高額の費用が必要である。このため、繰越す費用では消耗品の購入やHiCEPの施行に十分ではなく、次年度に繰り越して使用する方が効率的に使用できると考える。次年度には多くの実験系の消耗品の購入に科学研究費を使用する。また、研究成果発表、情報収集等のための学会参加、論文発表のための費用にも次年度の費用を使用する予定である。
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備考 |
放射線医学総合研究所、研究基盤センターの遺伝子・細胞情報研究開発の項目においてHiCEP法の説明があります。我々は放射線医 学総合研究所と共同で研究を行っています。
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