尿失禁は、生命危機に直結するものではないが、Quality of Life (QOL)を著しく損ねる疾患であり、日常生活、社会活動で多くの支障を及ぼすことから治療開発は重要課題である。また、超高齢化社会を迎え、さらに、前立腺癌発生率の増加にともなう手術件数の増加の予測を背景に腹圧性尿失禁患者の増大が見込まれる。腹圧性尿失禁に対する治療として、骨盤底筋訓練や薬物療法が挙げられるが、改善が認められないことが多い。外科的治療として、尿道スリング手術、傍尿道コラーゲン注入治療、人工括約筋植込・置換術が挙げられるが様々な課題がある。これらの背景から、われわれは、バイオ3Dプリンターを利用して脂肪組織由来の間葉系細胞(脂肪由来細胞)から尿道に移植するために適した形を有するC型構造体を用いた腹圧性尿失禁の新規治療法の開発を考案した。 研究期間では、ウサギ脂肪組織由来細胞からバイオ3Dプリンターを利用して独自開発のC型構造体を作製した。細胞を採取したウサギの尿道に凍結傷害を与えた後、C型構造体の自家移植の実験を行った。対照群には、構造体を移植しない偽手術を行った。術後、2,4週間目に尿道を摘出して観察したところ、対照群では、尿道の狭窄が認められたが、構造体移植群では、狭窄が認められなかった。また、組織解析において、移植した構造体の生着が確認できるとともに、移植構造体の中で、脂肪由来細胞の横紋筋、平滑筋、神経細胞や血管内皮細胞等の分化が認められた。さらに、構造体を構成している細胞からの細胞成長因子などの発現が認められた。これらの結果から、構造体移植による尿道再生の可能性を見いだした。
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