世界的に蔓延している薬剤耐性菌で病原性も強いESBL(基質拡張型βラクタマーゼ)産生大腸菌ST131株について、尿路感染症で多用されるFQ(フルオロキノロン)薬に対する耐性獲得と病原性の関係を動物実験モデルを用いて解明する。 まず培地上でのFQ耐性獲得と病原性との関係について検討した。ESBL(日本で分離が多いCTX-M-14型)産生大腸菌ST131株でFQ感受性のものをFQ含有LB培地にて耐性を獲得させる。耐性獲得毎にFQ耐性遺伝子の変異及び薬剤排出ポンプの関与を確認。同時に18の病原遺伝子の発現をみる。 FQに対する耐性を獲得する過程で初めに耐性遺伝子GyrA87位の変異がさらにGyrA83位の変異が確認された。(本株は初めからParC80位の変異あり)。耐性遺伝子の変異はPCR-RFLPで検出後、最終的にシークエンス解析で確認した。薬剤排出ポンプ阻害剤CCCP (Carbonyl cyanide -3-chlorophenylhydrazone)を用いた検討で薬剤排出ポンプの関与は認められなかった。 病原性については、特に尿路感染症の原因となる大腸菌に発現が認められる接着因子、毒素、シデロフォア、防御因子、侵入因子、その他についてmultiplexPCR法で遺伝子発現をみた。iha、pil(fimH)、PAI、fyuA、kpsMT、traT、uspは初めから発現が認められたが、耐性の上昇につれiha、PAI、fyuA、の遺伝子発現は認められなくなった。薬剤耐性獲得により、菌の定着・増殖が容易になった可能性が考えられる。なおST131株の病原性の特徴であるfimHはFQのMICに関わらず、強い遺伝子発現が認められた。 耐性獲得の過程や機序と病原性遺伝子発現の関係は、個々の菌株により差があり、菌株を増やし、標準的なものを選定して動物実験に供するのが適当と考える。
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