今年度は、ラマン分光法によって示唆された病態による構造蛋白質の変化について、さらなる知見を得ることを目標に、免疫組織化学的手法を用いて実験を行った。塩酸を膀胱内投与して作成した急性・慢性膀胱炎モデルラット膀胱の組織染色では、炎症による上皮の増生はモデル間での変化を認めるものの、マウスのモデル動物で報告されている炎症性の細胞浸潤について、モデル間の差は認められなかった。加えて、抗コラーゲンⅠ抗体、抗コラーゲンⅣ抗体による免疫組織染色も試みたが、発現様式についてモデル間での差は認められなかった。 細胞内のすべての物質活性変化後の状態をとらえる技術としてラマンスペクトル分光を応用し、その治療効果を判定する技術を確立することを目的に実験を進めたが、急性・慢性対照群とそれぞれの投与群とでは、蛋白質領域(アミドⅢ)800-1000 cm-1、1010-1110 cm-1、1220-1350 cm-1のスペクトルの差が顕著であり、急性対照群~慢性対照群~急性炎症群~慢性炎症群への段階的変化を検出することができたラマン分光法と組織学実験の結果を比較すると、膀胱の炎症性変化の検出方法としては、組織学的手法に比べてラマン分光法の感度が高いと考えられる。加えて、ラマン分光法は、前処理なく非侵襲的に生体を測定することが可能であり、実験で使用したラマンプローブはヒト膀胱鏡との共用が可能な大きさであり、データの蓄積とケモメトリクス解析や新たな計算式を確立することができれば、ヒトの臨床診断技術として利用できる可能性が高いと考えられる。
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