研究課題/領域番号 |
16K11066
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
升谷 耕介 福岡大学, 医学部, 准教授 (30419593)
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研究分担者 |
鶴屋 和彦 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (20372740)
土本 晃裕 九州大学, 大学病院, その他 (50572103)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | BKウイルス腎症 / 腎移植 / 病理組織診断 / 免疫組織染色 / SV40 large-T抗原 / VP1蛋白 |
研究実績の概要 |
免疫組織染色を行うのに十分な組織が残っているBKウイルス腎症のサンプルは16症例28生検であった。連続切片を作成し、SV40 large-T抗原とBKウイルスVP1蛋白の免疫組織染色を行った。染色条件は前年度に設定済みであり、全ての症例において良好な染色結果が得られた。SV40 large-T抗原染色ではBKウイルス感染尿細管の上皮細胞核に一致した陽性所見が得られた一方、BKウイルスVP1蛋白染色では尿細管細胞核以外にも細胞質や稀に間質にも陽性所見が得られた。さらに変性・壊死を起こして尿細管腔に脱落した細胞にも陽性所見が見られるなど、多彩な所見を呈した。Large-T抗原は早期蛋白であり、ウイルス粒子の複製が始まる前や複製の過程で発現し、VP1は後期蛋白であるため、完成したウイルス粒子が核内で増殖し、あるいは核膜を破って細胞質内に広がった時に陽性所見を示すと予想され、その時間経過に一致する所見が得られた。 次いでウイルス感染尿細管の数を生検組織中の全尿細管数で除した値(陽性率)で評価した。ウイルス感染、非感染尿細管数の計測は画像解析ソフトでは不可能であるため、目視で行った。28生検におけるSV40 large-T抗原陽性尿細管数(%)は中央値(四分位範囲)で2.8(0.5-3.9)%、BKV VP1蛋白染色で1.4(0.5-3.9)%であり、統計学的には有意差は認めなかったが、Large-T抗原が約2倍であった。ウイルス陽性尿細管の非常に少ない検体において、VP1蛋白染色が陰性と判定された例が2検体(7.1%)あり、ごく初期の例にVP1染色を用いた場合、偽陰性を呈する可能性が想定される。Large-T抗原の陽性率とVP1蛋白の陽性率の比率は個々の生検によってまちまちであり、生検時の移植腎機能など、臨床パラメータとの対比によりVP1染色の意義について検討を加える予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規症例が少なかったこと、あるいは過去の研究による切り出しのため、十分な組織が残っていない例もあったため、症例数は限定的であったが、両染色とも比較検討に値する良好な染色結果が得られた。両染色の比較でVP1蛋白がLarge-T抗原に対して半数ほどの陽性率であることが今回初めて示され、最終年度で症例が増加すれば追加して後述する臨床パラメータとの検討の精度を上げていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
後ろ向きの移植腎生検症例であるため、患者背景と移植関連事項に関しては十分な情報が得られる。SV40 large-T抗原とBKウイルスVP1蛋白のどちらの染色所見が臨床像をより反映するか、具体的にはLarge-T抗原陽性率とVP1蛋白陽性率のどちらが当該生検時の血清クレアチニン値(Cr)、ベースラインからのCr上昇度、治療後のCr値の推移(1、2、3、6、12ヶ月)、最終Crあるいは移植腎喪失の有無などと関連するかを統計学的手法を用いて検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度はBKウイルス腎症の症例が想定より少なく、研究に用いる試薬にかかる費用が想定より少なく、染色用抗体は前年度のものが使用可能であったことが原因の一つと考えられる。次年度に計画している試薬は改めて購入予定である。
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