研究課題/領域番号 |
16K11070
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
本田 一穂 昭和大学, 医学部, 教授 (10256505)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 腎移植 / 骨髄移植 / 血管内皮 / グリコキャリックス / 拒絶反応 / GVHD |
研究実績の概要 |
初年度は、①マウス骨髄移植後GVHDモデルの作成と②グリコキャリックスの可視化手技を検討した。さらに、腎血管内皮の多様性を形態的にとらえる目的で、③ホルマリン固定・パラフィン包埋切片の厚切り(10µm)標本を低真空走査電顕(LV-SEM)で観察する手法を検討した。 ①マウス骨髄移植後GVHDモデルの作成については、Lee ESらの報告を参考に行った。レシピエントであるBalb/c (H-2d) マウスに全身放射線照射後翌日に、ドナーであるC57BL/6 (H-2b)マウスの大腿骨から骨髄細胞(1X106個)と脾細胞(5X106個)を採取し、尾静脈より静注して移植した (n=6)。移植後、マウス体重減少と全身衰弱があり、4~7日までに大部分のマウスが死亡した。死因として肺水腫や肺出血が見られ、急性GVHDが疑われた。放射線照射と骨髄移植については、すでに実験手技を確認し、この手技で致死的な障害を惹起することが確認できた。しかし、その病的機序の詳細の検討が十分でなく、その病理学的機序と疾患モデルとしての妥当性を今後評価する必要がある。 ②グリコキャリックスの電子顕微鏡的可視化については、グリコキャリックスに含まれる多糖類に結合する陽性荷電の色素(ルテニウム赤、アルシアン青、キュプロメリック青、ランタンジスプロシウムなど)を固定液に混合して検出する手技の検討を行っている。電子顕微鏡的な観察は行えていないが、試料作製の準備段階にある。 ③LV-SEMによる腎血管内皮の走査電顕観察では、腎生検の切片を利用して腎血管各レベルにおける血管内皮の超微形態的な特徴を観察し、慢性拒絶反応時に各血管の内皮にどのような変化が惹起されるのかを観察している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目標である「臓器移植における免疫反応と血管内皮の多様性」を明らかにするため、臓器移植免疫反応のin vivoもしくはin vitroのモデル作成が重要である。さらに、モデル作成に平行して、内皮細胞のグリコキャリックスの変化を電子顕微鏡的に解析する方法の確立も重要である。初年度は、この二つについての研究計画を発展させるための準備を進めてきたが、主として研究者の時間的・労力的な問題で、未だ十分な進展が得られていない。 ①マウス骨髄移植後GVHDモデルの作成については、放射線照射と骨髄移植はすでに実験手技を確認し可能であり、この手技で致死的な障害を惹起することが確認できた。しかし、その病的機序の詳細の検討が十分でなく、さらなる実験モデルの条件検討が必要である。②のグリコキャリックスの電子顕微鏡的可視化については、今年度は電子顕微鏡試料作成が行えず、準備段階でとどまっている。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、前年度に引続き、臓器移植免疫反応のin vivoもしくはin vitroのモデルを作成することを目標にする。同時にグリコキャリックスの電子顕微鏡的可視化の方法を確立する。また、LV-SEMによる腎血管内皮の超微形態変化の検討は、腎生検検体を応用して疾患診断や病態解明につながる知見を探索する。今年度の具体的な研究推進方策を以下に上げる。 ①マウス骨髄移植後GVHDモデルの確立とその解析:実験条件を検討した上で、マウスの急性GVHD反応を、肺・腎・肝・小腸・皮膚を中心に病理学的に評価し、血管内皮面の変化(グリコキャリックスや補体活性化、細胞接着分子の発現など)を明らかにする。 ②グリコキャリックスの電顕的可視化法の確立:グリコキャリックスに含まれる多糖類に結合する陽性荷電の色素(ルテニウム赤、アルシアン青、キュプロメリック青、ランタンジスプロシウムなど)を潅流固定液に含有させて、in vivoモデルの臓器病変でのグリコキャリックス層を電子顕微鏡的に検出する。またin vitroモデルとして培養内皮細胞を用いて、細胞表層部のグリコキャリックス層を電子顕微鏡的に同定する手技を確立する。 ③LV-SEMを利用した内皮の変化と病態診断への応用:正常ならびに病的組織の内皮の超微形態所見を集積した上で、移植腎生検検体を用いた臨床病理学的研究のための計画を策定し、症例選定などの準備を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、マウス骨髄移植後GVHDモデルの作成において、十分な条件検討と解析が行えなかったこと、並びにグリコキャリックス層の電顕的可視化法の検討が行えなかったことにより、未使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の研究費は、マウス骨髄移植後GVHDモデル作成のための更なるマウス購入、飼育費、病理学的解析、細胞培養実験のための器具、培地、血清、増殖因子、グリコキャリックス検出のための電子顕微鏡試料作製の試薬と材料の購入などに使用する。また、病理報本作成のための謝金、研究成果の発表や情報交換のための旅費として使用する予定である
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