令和1年度は,血管内グリコキャリックス(GCX)の可視化法の確立とCLEM法(光電子相関顕微鏡法)の応用を中心に研究を行った.血管内GCXの可視化は従来透過型電子顕微鏡で行われ,さらにGCXを描出するため陽性荷電粒子の潅流が必要であった.しかし,試料作成手技の煩雑さと潅流固定の制約で,ヒト臨床検体への応用が困難であった.これらの問題を解決するために,固定方法は潅流ではなく浸漬とし,試料は通常のホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)ブロックの薄切切片で代用し,低真空走査型電子顕微鏡(LVSEM)で観察する簡便法を検討した.マウスの腎臓を採取し, 1%アルシアン青(ALB)を含む10%中性緩衝ホルマリン(pH6)で4℃,5日間浸漬固定し,FFPEブロックを作成した.対照として同じ固定液の潅流固定とALBを含まない固定液の浸漬・潅流固定の試料を作成した. LVSEMでALB粒子を可視化するには,鍍銀染色である過ヨウ素酸メセナミン銀(PAM)染色が有用であった.LVSEMによる観察では,潅流固定と同様に浸漬ALB固定した腎において,糸球体毛細血管(GC)や尿細管周囲毛細血管(PTC),腎動脈や腎静脈の血管内面に付着したALB粒子の層が描出され, CLEM法で血管内皮GCX層として明瞭に描出された.血管レベルでは,GC,PTC,腎静脈に比べ,腎動脈ではALB粒子が減少し,粒子の付着状態を比較することで,臓器内の血管部位によるGCXの格差を評価できた. ALB含有浸漬固定のFFPE検体のLVSEM観察は,今後,ヒト臨床検体を用いた各種臓器の血管内皮GCXの評価を可能とし,その臓器間格差や血管レベルによる性状の変化と移植免疫反応の関係の研究に役立つことが期待される.
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