研究課題
従来より、不妊治療や優良な家畜の安定的な生産と希少動物の保護などのために、人工授精が行われている。貴重な精子や卵子を用いることから、その受精率を向上させて効率よく人工授精を行えることが望まれている。本研究では、人工授精においてさらに受精率を向上させるため、漢方薬の約7割に用いられ人体に対する緩やかな薬用効果で知られている甘草を用いて、マウスを用いて人工授精培地の改良を行い、有効成分を同定し、その作用機序について解析を進めた。雌マウスから、ホルモン処理により、HTF MEDIUMに採卵した。受精率の悪い、加齢Balb/cマウスの精子を約1時間 polyvinyl alcohol (PVA)とmethyl-beta-cyclodextrin (MBCD)を加えたHTF MEDIUMで活性化した。活性化時に、甘草エキス水溶液を添加した。精子を卵子に加えた24時間後、顕微鏡下で観察を行い、2分割卵を受精卵としてカウントした。成分が蛍光物質であることから、培養液中の精子を蛍光顕微鏡で観察した。Balb/cマウスの精子は形態が悪いことが報告されており、IVFの効率が低い。甘草エキス水溶液を添加した培地では、Controlの培地に比べ受精率が著しく増加した。甘草エキスから有効成分の抽出を試みた結果、イソリキイチゲニンとホルモノネチンがそれぞれ単体で受精率を上昇させた。これら分子を含む培地中のマウスの精子を蛍光顕微鏡で観察した結果、Post-acrosomal region およびMid pieceに強いシグナルを得た。また、精子のSDS-PAGE後のオーバーレイアッセイにおいて、蛍光を発するバンドを検出した。最近になって、今回得られた2つの分子に関して様々な生理活性が報告されている。精子においても、これら分子は射出後の精子の運動性や受精能獲得に貢献したものと考えられる。今後、これら分子の精子での局在を手掛かりに、その作用機序について解析を進め、ヒト不妊症の容易な治療法に貢献したい。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画では、平成28年度は、蛍光物質であるイソリクイリチゲニンやホルモノネチンを用いて、ヒトタンパク質を網羅したタンパク質アレイにかけることと、これらフラボノイドの抗体の作成を進めることであった。イソリクイリチゲニンやホルモノネチンを用いてオーバーレイアッセイを行えること、また、精子をこれらフラボノイドを用いて直接染色できることが明らかになったことから、プロテインアレーの用意を進め、抗体作成に取りかかっており、おおむね当初の計画のとおり進展している。
オーバーレイアッセイと精子細胞でのフラボノイドの局在を解析した結果、蛍光物質であるイソリクイリチゲニンやホルモノネチンと結合するタンパク質の分子量、及び局在を観察することができた。現在、ヒトのタンパク質を網羅的したプロテインアレイ解析を準備している。初期の予定のとおりイソリクイリチゲニンやホルモノネチンの抗体の作成にとりかかっている。
年度末に注文した消耗品が生産者の都合で納期が4月になった。
4月の時点で計画のとおり執行されている。
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