研究課題
従来より、不妊症治療や優良な家畜の安定的な生産と希少動物の保護などのために、人工授精が行われている。貴重な精子や卵子を用いることから、その受精率を向上させて効率よく人工授精を行えることが望まれている。本研究では、IVFにおいて受精率を向上させる甘草抽物内の有効成分を同定し、その作用機序について解析を進めた。雌マウスから、ホルモン処理により、HTF培地に採卵した。受精率の悪い加齢Balb/cマウスの精子を1時間、アルブミンの代わりにpolyvinyl alcoholとmethyl-beta-cyclodextrin を加えたHTF培地で活性化した。活性化時に、甘草エキスから抽出した成分を添加した。精子を卵子に加えた24時間後に顕微鏡下で観察し受精卵をカウントした。成分が蛍光物質であることから、培養中の精子と卵を蛍光顕微鏡で観察し、分子の局在を観察した。甘草有効成分を同定した結果、イソリキリチゲインやホルモノネチンを加えると受精率を向上させることが明らかになった。これら分子を含む培地中のマウス精子を蛍光顕微鏡で観察した結果、Post-acrosome region及びMid pieceに強いシグナルを得た。また、精子タンパク質をSDS-PAGEで展開し、オーバーレイアッセイを行った結果、蛍光を発するバンドを検出した。また、これら分子が精子の活性化にどの様に影響を与えるのかを調べた結果、アクロソーム反応にはほとんど影響を与えないが、ハイパーアクティベーションを示す精子の割合が増えた。これら分子は、射出後の精子の運動性や成熟に影響を与え、受精率を向上させたものと考えられる。今回、これら分子は細胞膜を通過することが示された。細胞内のタンパク質に作用し精子の活性化に影響を与えると考えられる。オーバーレイアッセイで得られた結果をもとに、精子の結合タンパク質を同定したい。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、オーバーレイアッセイのタンパク質を同定できる予定であった。しかしながら、タンパク質の一定量の調整が遅れている。ホルモノネチン対する抗体作成については、抗体化の上昇が観察されたので、モノクローナル抗体のクローニングを進めている。一方で、精子の運動性の変化を観察した結果、アクロソーム反応に変化は見られなかったが、甘草成分を添加することでハイパーアクティベーションを起こす精子が増加することが明らかになった。また、ヒトでの臨床応用の条件を整えることができた。
最終年度には、イソリキリチゲインやホルモノネチンと結合する精子タンパク質の同定とヒトでの効果の解析を進めたい。
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International Journal of Reproduction, Fertility & Sexual Health (IJRFSH)
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